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□私の指定席
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自転車の2人乗りは怖い。

けど、孝介の後ろなら平気なの。

それは、今まで沢山乗ってきて馴れたっていうのもある。

転ばないって実績もある。

けど、一番の理由はそういうのじゃないの。

孝介には秘密の密かな楽しみだからなんだ。

「まだ、怖いのか?本当、2人乗りダメだよな」

自転車を漕ぎながら孝介が呆れたようなからかうような声で私に言った。

私は何にも答えないでただ、孝介の背中にギュッとしがみついてた。

孝介は知らない。

私が好きってこと。

知らなくてもいいんだ。

孝介が自転車の後ろに乗せるのが私だけって知ってるから。

いつか誰かに私のこの指定席を譲るその日まで私を後ろに乗せてねって心の中で呟いた。

桜が舞ってまた季節が巡る。

私は孝介の腰に廻した腕に力を込めた。

出来たらずっと私だけの指定席でいて欲しい。

孝介に触れるのもしがみつくのも私だけがいい。

どんどん膨らむ独占欲と比例して好きって気持ちも膨らむから好きって気持ちが伝えられなくなる。

矛盾した私。

ぎゅーっと力いっぱい孝介の背中にしがみついたとき孝介の言葉が春風に乗って聞こえてきた。

「お前、ずっと俺の後ろに乗れよな」

「え?」

「こんだけ怖がりなヤツ乗せれるの俺しかいないじゃん」

見上げた先に見えたのは孝介の頭。

それとちらっとだけ見えた赤い頬。

私は再び孝介の背中に顔を埋めると小さく頷いた。

うんって言った私の声は孝介の背中を通して孝介自身に届き私だけの指定席は未来永劫私だけのものになった。

自転車から降りたら今度は私から好きって言おう。

孝介の隣も未来永劫私だけの指定席にする為に。

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