戦国無双の人々
□温石―おんじゃく―
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■初芽局■
初芽は三成を殺さねばならぬ、くの一――だった。
しかし、初芽という名を三成から貰った瞬間、彼のものとなった。
私には名前がなかった。
だからいつ死んでもだれもこの名を呼んでくれるものはいない。
見取ってくれるものなどいないと、おもっていた。
だけれど、あなたに会えた。
そのことで、私は『光』をしった。
徳川が送り込んだ刺客だとばれたとき、死を覚悟した。
「名がないのなら、名をやろう初芽でどうだ?」
初芽、それが私の名前。
「殿、ご正室に内緒で女を囲っているようですな」
「左近、」
「しかも徳川のくの一だとききましたよ」
「ふ、相も変らず情報が早いな」
ぱしんと扇で掌を打つ。
「あいつは俺にそっくりなのだ――難儀に生きてきた」
「ほう。うちの軍にももっと難儀でしかたのない女将がいますが」
「あいつは立花の名をたてに自由気ままにいきているのにすぎない」
「いいますな」
「だが初芽は名がなかった。いつ果てても言いように育てられた。それが難儀に思えたのだ」
珍しい、と左近はおもった。
傲慢でまっすぐだが素直じゃない三成が、ある女に同情するなんて。
本人は同情しているとはおもっていないのだとおもうが。
「初芽どのを愛していますか?」
「愛する?」
ふん、とあごをしゃくる。
「――どうだか」
やっぱり、素直じゃないと左近は襟首をかいて空を仰いだ。
☆
愛するも何も、あの女を抱いてない。
ぱしんと、扇で掌を打つ。
似ているとおもたのだ、生き方が。
昔の自分と――。