短編

□3歩の距離
3ページ/5ページ



建物が少なくなり、長屋が多くなって来た所まで、私達は無言で歩いた。


銀さんは歩く幅が大きくて、着物を着る私は常に銀さんの3歩手前で着いて行く状態だった。


小さな河を渡る橋に辿り着いた所で、銀さんの足が止まった。


「?」


私も不思議に思いながらも足を止め、銀さんの広い背中を見る。


「お妙ー」

「はい」


取りあえず返事をする。


「これからは俺お前の事迎えに来るから」

「え?」


銀さんはまた頭を掻き、ボソボソと呟いた。


「いや、だって元は俺がいけねぇじゃん?お前がスナックに働き出したのは。そのせいでお前が何時もあんな連中に引っ掛かってんなら、男として野放しにできねぇし・・・だから」


「あー、くっそ、めんどくせぇ」と吐き捨てる銀さん。


銀さんが言っているのは、新ちゃんが彼のせいで1回職を辞めさせられた事だろう。


私はにっこり笑った。作り笑いじゃなくて、本物の笑顔。


「まだあんな事気にしてたんですか。まぁ普段なら許して上げないですし、というか殺すと思いますけど」

「・・・やっぱり?」

「でも、もう良いです。今の仕事も楽しいですし・・・それに・・・」


貴方ですから。


言おうと思ったけど、結局、喉の奥でつっかえて出てこなかった。


銀さんは、くるりと私の方に振り向き、頭を撫でてくれた。


「サンキューな」


柄にもなく、ドキンと胸が高鳴った。


その時の銀さんの顔が、凄く綺麗で、私はつい見惚れてしまったから。


「話はそんだけ」


銀さんは、足が動かない私を置いてまた歩き出した。



行かないで。



好きです、どうしようもなく。



銀さんは皆の銀さんだって解ってる。



でも、それでも。



この、日に日に増してく想いは、止められそうもないの。



私は、言うことを聞かない足を必死に動かし



銀さんの背中に、寄り添った。


.

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ