短編
□3歩の距離
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建物が少なくなり、長屋が多くなって来た所まで、私達は無言で歩いた。
銀さんは歩く幅が大きくて、着物を着る私は常に銀さんの3歩手前で着いて行く状態だった。
小さな河を渡る橋に辿り着いた所で、銀さんの足が止まった。
「?」
私も不思議に思いながらも足を止め、銀さんの広い背中を見る。
「お妙ー」
「はい」
取りあえず返事をする。
「これからは俺お前の事迎えに来るから」
「え?」
銀さんはまた頭を掻き、ボソボソと呟いた。
「いや、だって元は俺がいけねぇじゃん?お前がスナックに働き出したのは。そのせいでお前が何時もあんな連中に引っ掛かってんなら、男として野放しにできねぇし・・・だから」
「あー、くっそ、めんどくせぇ」と吐き捨てる銀さん。
銀さんが言っているのは、新ちゃんが彼のせいで1回職を辞めさせられた事だろう。
私はにっこり笑った。作り笑いじゃなくて、本物の笑顔。
「まだあんな事気にしてたんですか。まぁ普段なら許して上げないですし、というか殺すと思いますけど」
「・・・やっぱり?」
「でも、もう良いです。今の仕事も楽しいですし・・・それに・・・」
貴方ですから。
言おうと思ったけど、結局、喉の奥でつっかえて出てこなかった。
銀さんは、くるりと私の方に振り向き、頭を撫でてくれた。
「サンキューな」
柄にもなく、ドキンと胸が高鳴った。
その時の銀さんの顔が、凄く綺麗で、私はつい見惚れてしまったから。
「話はそんだけ」
銀さんは、足が動かない私を置いてまた歩き出した。
行かないで。
好きです、どうしようもなく。
銀さんは皆の銀さんだって解ってる。
でも、それでも。
この、日に日に増してく想いは、止められそうもないの。
私は、言うことを聞かない足を必死に動かし
銀さんの背中に、寄り添った。
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