短編

□優しい君に、アリガトウ
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それはもう肌寒く、朱い紅葉が綺麗な季節の晴れた日の午後だった。

私と定春はいつもと同じルートで大通りを散歩していた。

「定春、今日は天気がいいアルナァ」

「ワンッ」

「そうアル!!どうせならこのまま屯所行くネ。一緒にジミーをからかおうねぇ定春ぅ」

「ゥワン!!」


ジミーと言っておきながら頭ではあのサドしか思い浮かばないのは気のせい気のせい。


そのまま二人で並んで歩いていると、急に定春は鼻をクンクンさせキョロキョロ仕出した。

「ワンワンッ!!」

「ん?定春どうした・・・わっ!!」


突然定春が走り出し、私は尻餅を付いた。

驚いて前方を見ると、定春はどこかのお金持ちのおばさんとメス犬に向かって走っているのが分かった。


「ワン!!」

「キャァア!!なにこの怪物ぅ!!ちょっ私のマロンちゃんに触らないでよ!!」

「ワン!!」

「ギャァァア!!」

メス犬の飼い主のおばさんが何か騒いでいるのは無視して、

(定春も年頃アルナ。)

と立ち上がりながらシミジミと思っていると、いつの間にか定春は逃げるおばさんと、そのおばさんが抱えるメス犬を追い掛けて私からはぐれてしまった。


「え、定春!!」

慌てて走っても、定春は人込みに紛れて見当たらない。

それでも私は、定春が行った方向へ他の通行人を飛ばしながら捜す。

すると一瞬、大通りから抜ける細い曲がり角から定春の尻尾が見えた。

が、すぐにその尻尾は曲がり角へ消えた。


あ、と声を出しながら、私も曲がり角を曲がり、走る。






それから私はずっと定春を捜しているのだが、定春はいっこうに見付からない。




























「定春ぅ!!どこいるアルカァ!!いたら返事するネ!!」


いつの間にか辺りは紅い夕焼けに包まれていた。

こっちに来たのは間違いない。だって道に巨大な犬の足跡があるから。

「定春ぅ!!そろそろ帰んないと銀ちゃん達が心配するヨォ!!」


どこまで歩いたのかわからない。

私は歌舞伎町の女王と呼ばれる自分が全然知らない長屋で声を張り上げている。

人気が全くないから、辺りは怪しい匂いがぷんぷんしているけど、

それでも私は此処から出ようとはせず、テクテク歩く。



















この時、自分がもう少し気を張っていれば












私を着ける輩に気付けたかも

















しれないのに−・・・


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