短編
□3歩の距離
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「な・・・何だお前」
男は少なからず驚いている様だ。
いや、実際私でさえも驚いている。
「銀さん・・・!?」
男の腕を掴んでいるのは、自分の弟、つまり新ちゃんの就職先の主人、坂田銀時だった。
相変わらずの何も読み取れない眼をしていて、でも男の腕を掴んでいる手はギリギリと私の方まで聞こえるくらいに強く力が篭っていた。
「・・・っつ」
「その女、俺の連れなんだわ。だから、離してやってくれない?」
苦しそうな顔をしている男を無視して話す銀さんは、何時も私達を守ってくれる時の彼の声で。
私は一瞬そんな彼に胸を高鳴らせた。
「・・・チッ」
バッと乱暴に私の手を離して、男は逃げるように(いや、実際逃げてた)走り去って行った。
「ハァ、何がイケメンなんだかねぇ、あの糞ガキは」
呆れた様に、私が思ったことを口にする銀さん。
「余計な事をしないで下さい。あんな人私1人でも片付けられました」
ホントはお礼を言うのが普通なんだろうけど、生憎私はそんな女々しい考えの持ち主ではない。
いくら相手が自分の想い人なのだとしても、この性格は変わりそうもない。
「ひでぇな。折角皆のアイドル銀さんが悪い男から守ったってぇのに」
「買い被りも止して下さい。あんな連中にナンパされるのなんて、もう慣れました。今更助けて欲しいなんて思わないわ」
銀さんは私をちらりと見て、彼の特徴とも言える銀髪の天パをボリボリと掻き、「そうかよ」とぶっきらぼうに呟いた。
「まぁ俺もたまたま酒屋から帰る途中に見掛けただけだしぃ?別に感謝なんかされたくもねぇわ」
子供の様に呟く銀さんに私は小さく笑う。
「んだよ」
「クスクス・・・なんでもないです」
「・・・あっそ。んじゃぁ行くぞ〜」
「え?」
私は訳が分からずキョトンと銀さんを見上げる。
「だーかーらー、お前の道場まで送ってやるっつってんだよ」
銀さんは先に前へ歩いて行った。
ザッザッ
「・・・分かりにくいわ」
「・・・チッ。可愛くねぇ女だなぁ、お前」
「元からです」
「そーだな」
私は、銀さんに気付かれない様に笑い、後を着いて行った。
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