短編
□今そこに愛があるのだから
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例えば、明日。
明日、私も銀ちゃんも新八も定春も万事屋も真選組も歌舞伎町も江戸も日本も地球も宇宙も全部全部失くなって、全てが「無」に帰したとしよう。
そしたら私は「私」でいられるのだろうか。
「私」という存在がいた事を証明出来るのだろうか。
ロマンチストな野郎は「神様が証明してくれる」と言うだろうし、シケた野郎は「誰も証明なんかしてくれない」って言うかもしれない。
前者にはじゃぁ聞くが「神様」とは一体何なのだろうか。
「神様」なんて所詮人間が都合良く物事を運ぶ為のシステムだと私は思う。
人間は不思議な事に都合の悪いとあればすぐに誰かのせいにする。
けどむやみに人のせいにするとまた後々都合の悪い事が起こるものだ。
人が「人」ではない存在しない「誰か」を創造したもの、それが「神様」ではないのか。
それは所詮架空の存在で、さっきも言った通り人間全てがいなくなったらすぐに消滅する穿かないものなのだ。
それでは後者の方が正しいのか。
そうでもないと思う。
私は「神様」を否定したけど、それは私もシケた奴だからではなく、そんな存在いないという事を幼いながらにして身を持って体験したからだ。
私は決してシケた野郎ではない。
だって私は誰にも「私」という存在を忘れてほしくないと思っているから。
それはロマンチストでも、シケてるわけでもなく、言ってみれば、我が儘。
それがガキらしくないガキである私の、唯一のガキらしい欲張りなのだ。
「どうしたんでさァ、神楽。シケた面して」
「だからシケた野郎なんかじゃないって言ってるダロ聞いてろバーカ」
「・・・誰が、いつ、何処で、どのように、そんな事言ったんですかィ?ん?3文字以内で答えなせェ」
「ひはひひはひ!!ほんなふひゃほはへらへなひひゃほーは!!ふーはしゃふもひひなひなふへふひはる!!(痛い痛い!!こんなんじゃ答えられないダローガ!!つーか3文字以内なんて無理アル!!)」
「ごめん、全然わかんねェ。大丈夫だ、お前ならこのピンチをくぐり抜け俺の問いに3文字以内で答えられまさァ!!多分!!」
「ひゅうふんきこへてふひゃへぇかァァア!!(十分聞こえてるじゃねぇかァァア!!)」
この、私の隣に座って私と会話して私の頬を力強く抓って私に向かって黒い笑みを浮かべる栗毛の少年も、私の「例えば」の中で「私」の存在を覚えていてほしい人物の中の1人だ。
いや、もしかしたら、1番その念いが強いかもしれない。
何でか分からないけど、確かにこいつは私にとって「特別」と言える存在なのだ。
例えば形あるものに表すならパピーと銀ちゃんと新八と定春は「家族」。姐御とそよちゃんは「親友」。ゴリラとマヨとミントンは「悪友」。
けどこの少年、沖田総悟に関しては何処にも属さないし、どの形にも表せない。
ちょっと前までは、こいつも「悪友」の中に収まっていた。
けど、何時からか、この男は私が決めていた「悪友」という枠から自ら飛び出して、そして勝手に新しく枠を作っていた。
図々しい事にその枠は1人しか入れなくて、私はその枠を命名するのに戸惑っている。
周りの人には「恋人」とか「彼氏」とか言われるけど、そんなんじゃない。
確かにこの男は「俺と一生喧嘩しろィ」と非常に解りにくい告白をして枠から出たけど、私もずっとそうしてたいと思っているけど、そんなちゃっちい言葉で括りたくないのだ。
「神楽、お前さっきからなんか変ですぜ?」
総悟は私の反応の無さに飽きたのか、つまんなさそうに私の頬を離した。
途端に両頬がじんじん熱くなって、私は思わず手の平で押さえ付ける。
そしてここまでこんなにさせた張本人である総悟を睨んだ。
「レディーの頬抓るなんて、どんな神経してるネ」
「何処にレディーがいるんですかィ?俺には大食い怪力馬鹿チャイナ娘しか見えねぇや」
総悟が言い終わるか言い終わらない所で手の平をグーにしてそれを思い切り振ってやった。
パシッ
拳は放った相手の顔にめり込まずに、良い音と共に手に収まった。
「・・・っ」
威力の無くなった無力な私の拳は、少し温かくて私より二廻りくらい大きい総悟の手の平にすっぽり包まれていて。
それを見入っていると総悟に意地悪く笑われた。
私は恥ずかしさと怒りと悔しさから視線をぷいっと自らの膝に移した。
けど拳はまだ総悟の手の中に掠われているまま。
無意識のうちに、私よりちょっと体温が低い総悟の温もりが心地良いと思った自分がいるから。
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