短編

□Merry Christmas
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それはチャイナ娘とサド王子が出会って、最初の12月の日の出来事−・・・。




「もうすぐクリスマスだね」

「だよね!!」

「楽しみだね」

「うん!!今年は私、サンタさんにぬいぐるみ頼んだの!!」

「あたしは新しい着物!!」

「あー早く25日になってくれないかなー」

「早くケーキ食べたーい!!」


まさにアハハーウフフーと笑い合いながら公園の出口に向かっていく、まだサンタの存在を信じている無邪気な子供達。

そんな彼女達が出ればたちまちこの公園は静まり返るだろう。
何故なら時刻はもうとっくに午後の4時過ぎ。
空には紺碧の暗闇が支配し掛けている時間帯だ。

だから母親の言い付けを守っている子供が公園を離れ帰っていくのは当然で、特にクリスマスが近いこの頃は、サンタを信じる子にとっては親の言い付けは無視できない存在なのだろう。

何故なら言い付けを守れない悪い子はサンタからプレゼントを貰えない、そう子供達の間でまことしやかに噂されているからだ。(実際それは大人達がばらまいたものなのだが・・・)


ともかく、クリスマス前は皆それらしく明るいのだ。


本当にサンタがいるとは、子供以外誰も思わないだろうがねぇ。


ふむ?私が誰だって?私は人間に夢を与えるただの真っ赤なお兄さんさ。
ついこの間父が他界してねぇ。あのヒゲ親父、俺はソリなんか乗ってプレゼントを渡す仕事なんざしたくねぇっつったのに・・・。
おっと失礼。見苦しい所を見せてしまった。子供の頃同級生にからかわれてしまってね、それ以来トラウマなんだ。まぁ今はそれなりに楽しいのだがね。だから今もこうして仕事の前にも人間達の様子を見に来ているのだよ。特に子供は好きだねぇ。

ん?私はあんな天人とも人とも似つかないオヤジとトナカイとは違うよ。本物さ。ちゃんとトナカイも飼っているしね。

ただ私がプレゼントをあげる人数は限られているし、それは物じゃない、それだけの話さ。だから子供がいる大人は私のフリをするのだよ。
皆、自分の子が可愛いのさ。


さて、私もこの公園を後にしよう。もう子供は誰もいま・・・い?


・・・おやおや、まだ公園にいる子供がいる。悪い子だ。空は既に真っ暗だというのに・・・。


この星にしては珍しい。チャイナ服か。側に置いてあるのは傘、という事は、夜兎の子かな?まだこんな幼い子供がいたなんてねぇ。


それにしても、ベンチに座って何をしているのだろう。

公園に垂直に延びる道路の両端に生える松の木には、綺麗にイルミネーションが施されており、そこの歩道に並ぶ店頭は、どれもクリスマスの飾りで一杯だ。


それを、ベンチに座り無表情に見続けているチャイナ娘。


綺麗だとは思わないのか、嬉しいとは思わないのか、彼女の目はただそれを映しているだけだ。


クリスマスが嫌いなのか、と、私は少し不安になる。

そういう子は稀にいる。
そんな子達を見ていると、クリスマスしか仕事がない私のような存在は誰しも心を痛めるのだよ。


このまま立ち去ろうか、と思ったその時、公園に誰かが入って来た。

全身黒で覆われていいるし、気配を殺しているのか私でさえ気付くのが遅れた。


その人物は男だった。まだ幼げが残っているその容姿は、この季節の風を受けてももろともせず、ポーカーフェイスを保っている。

左腰には日本刀をさしている。

この時代に刀を堂々とさしているという事から、彼は幕府の者なのだと教えさせられた。


先のチャイナ娘の方に真っ直ぐ向かっている男。


恋人同士なのだろうか、だとしたらあのチャイナ娘、かなりのやり手だと思っている、と・・・。


「おいエセチャイナ、早くこの公園を出なせェ。空気が悪くならァ」


男が発した第一声がそれだった。

これを聞いていると、2人を恋人同士だと思った私が馬鹿だったと思った。


チャイナ娘は視線だけ男に向けた。


「じゃあお前が此処に来なければ良いだけの話アル」


ソプラノの声が、公園に響く。


「俺は仕事でこの公園を廻ってんでィ。よって、お前は邪魔」

「市民の自由を縛るのが仕事アルか?税金泥棒が。吐き気がするネ」

「ゔぇっ空気がっ。テメェが吐く息は毒素が混じってんですかィ?酢昆布の臭いが充満してらァ。気持ち悪っ」

「・・・・・・」


チャイナ娘は顔に似合わず毒舌だ。しかし、男の方はもっと酷い。傍観しているこっちも胸が痛む。しかも、男は押し黙るチャイナ娘を見て笑っているのだ。
ドSだ。あの男はドSになるために生まれて来たのだ。


「サド、お前絶対友達少ないだろ」

「ガキを早く家に帰そうとしてんだ。有り難くおもいな」


チャイナ娘は長く溜め息をつき、傘を持ちベンチから立ち上がった。


「これで帰ってる途中私が事故で死んだりしたら、私お前を一生呪ってやるネ」

「死んでくれたらこれ程嬉しい事はないねィ。葬式には出てやらァ。嘲笑いながらその醜いツラに唾吐き付けてやるからよぅ」


メンチ切り合っているこの2人の殺気は、見た目と掛け離れ過ぎている。
夜兎の子は仕方ないにしても、あのサド王子も負けていないという事は驚きだ。相当な剣の使い手だとお見受けする。


と、ふとサド王子の表情が微かに和らいだ。


「早く帰んなせェ。善良なお巡りさんの最後の忠告でさァ」


その時私は、この明後日の方向を向いているサド王子は、無意識の内にチャイナ娘に対して特別な感情を抱いているのではないかと思った。

彼等はまさに犬猿の仲といっても何等可笑しくないが、その本能的なものを通り越して、何かに惹かれているのではないかっと・・・。


チャイナ娘は黙ってサド王子の横を通り過ぎた。

が、何を思ったのか、チャイナ娘は公園の出入口の前で立ち止まり、


「じゃぁ善良なお巡りさんにお尋ねするネ」


そう言った。


サド王子は相変わらずのポーカーフェイスで面倒臭そうに振り向く。


「何でィ」

「『クリスマス』って食べれるアルか?」

「・・・は?」


・・・は?


思わず私もサド王子と同じ反応をしてしまう。


なんと、クリスマスを知らない子供がいたとは・・・。


「そりゃぁサンタからプレゼントをもらう日」

「サンタって、誰アル」

「・・・・・・・・・・・・」


あの子の星のサンタは何をやっているんだァァア!!

柄にもなく叫びそうになってしまった。


サンタは生き物がいる全ての星に存在している。プレゼントをあげる人数は限られていても、サンタは自らをその星の生命に噂し、皆に希望を与えるのだ。
それなのにあの夜兎の子はサンタを知らない?馬鹿な。それぞれの星のサンタは生きている限り自らの噂を絶やさない筈。そうでないとサンタという存在の意味がなくなるのだ。


私は、チャイナ娘をまじまじと見た。


彼女の蒼い目は淀んでいない。寧ろ澄んでいる。だがその先に、どこか悲しい感情も覗かせていた。


もしかしたらあの子の星のサンタは、もう何年も前からいないのではないか、と、一つの推測が頭を過ぎる。

他界したきり新しいセガレもいないまま、あの子の星はサンタの存在を忘れてしまったのではないか。
だから、あの子は今クリスマスだサンタだと笑っているこの星の人間が分からないのではないか、と・・・。


「面倒くせェ。そんなん旦那にでも教えてもらえィ」

「・・・じゃぁな」


軽くあしらうサド王子を冷めた目で見て、チャイナ娘は諦めた様に公園を後にした。


珍しく人間の会話を見入ってしまった。これでは他の人間の様子を見れない。もう準備に取り掛からなければ。


私はろくに公園内を巡回せず公園を出ていくサド王子を尻目に、空へと飛び立った。


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