短編

□就職予約
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キーンコーンカーンコーン・・・


「はーいHR終わりー。紙後ろから回せー」

「・・・・・・」


進路って・・・何アルか。





−−・・・




私はもう一度繰り返した。


「進路って・・・何アルか」

「んなの俺に聞くな。いいから適当に書け」


適当に答えやがった天パに私はけしかすを投げ掛け、私はプリントの上に突っ伏した。


きちんと指導しろよなー偽先公。


「おい、おーい起きろー神楽ー」

「あだっいだっ」


頭に強い衝撃が数回襲い掛かる。耳元でバサッバサッと音が聞こえた。

私は渋々顔だけ机から上げると、銀八先生は呆れたように深く溜め息を吐いた。
少し上がった手にジャンプがあるという事は、頭を殴った道具はそのジャンプなのだろう。


「早く書けっつの。オメェがそれ提出しねぇと俺も帰れねぇんだよ」

「だって思い浮かばないアルー」


窓を見ると5時過ぎだというのにもう空は暗くなり始めていた。あぁもうすぐ冬なんだと思い知らされる。


私の席の前に座っている銀ちゃんも同じ事を思っていたのか、視線はジャンプじゃなく外に向いていた。

それをぼーっと見ていたら銀ちゃんの視線は私にまた移る。死んだような眼が伊達メガネ越しから覗く。


「んな事言ったってオメーそれいつの頃の話だよ。俺の記憶では6月頃のような気がするんだけど」

「時は目が回る程早く進むものネ。特に私みたいな忙しー女子高生にとってこんな紙切れ目にも止まらないアル」


つべこべ言わずに書けクソガキ。

そう言われまたジャンプで頭を叩かれ、私はイラつきながらも机の上に乗っているくしゃくしゃのプリントと睨めっこを開始した。


プリントの1番上には「進路希望調査」と印刷され、その下に大学進学か専門学校か就職か、とか、何やら行きたい大学を書く欄とか、まぁ高校3年生は必ず決めなくてはいけない事を書くスペースが印刷されているのだ。


この時期になってもこれを記入していないのは私らしく、こうして放課後銀ちゃんと居残りを受けている。


何か適当に書けばいいと言うが、それはそれで何かムカムカするし、かと言って本気でなりたいものとか行きたい大学とかないから、4時過ぎで帰れる筈のこの居残りは1時間以上オーバーしている。


銀ちゃんは早く録画していた昼ドラを見たいらしく、ジャンプに目を通しながら貧乏揺すりを繰り返していた。


「早く書けっつってんだろうがよー。もうあれだろ、自然に帰りたいとか野生に帰りたいとかジャングルに帰りたいとかウホウホしたいとかでいいだろ。そうしろ」

「それ全部ゴリラに還れっつってるのと同じ事だろぉぉぉお!!!!」

「ブフッ」


綺麗に銀ちゃんの顔面に拳を決める。銀ちゃんの鼻からは鼻血が出てきた。


「へめ・・・ほもいきり殴ったな。言われたくなかったら考えろって」


雑音が聞こえ、銀ちゃんは鼻を押さえながら後ろを振り返った。

この雑音は知ってる。3年間1日最低3回は聞く音だ。放送がかかる時の音だ。


『えー、3年Z組坂田銀八先生、坂田銀八先生、至急校長室に来るといいぞよ』


放送はあのハ・・・バカ校長からで、しかも銀ちゃんをお呼びのようだった。


「んだよバカ校長めんどくせぇな」

『馬鹿者!!我はハタ校長じゃ!!』

「あれ、なんで聞こえてんの」


しかたねーなー、とかったるそうに椅子から立ち上がった銀ちゃん。


「とりあえず、今日完全下校までに何かしら書いとけ。進学するか就職するかだけでもいいからよ」


私に指差して指示してくる銀ちゃんの姿は鼻血が出てなければ普通の教師だった。

それを鼻で笑ってやれば無言で頭を殴られ、銀ちゃんは3年Z組の教室から出て行った。


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