短編

□人生転換の厄日
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過去拍手





要するに、今日は厄日という事だ。


私は頭の中でそう自己完結させた。


冷たい風が強く吹いた。
膝上のスカートが少し浮き上がり、脚に風が容赦なく叩きつく。

あぁ、寒い、寒い。何でこんな寒い思いしなくちゃならないんだろう。(あ、厄日だからか)


約28時間前の私は、明日も極々普通でいつも通りの生活がリピートされるのかと思っていた。


朝8時に起きて(つまり寝坊)私を妨げる高い校門とゴリラやマヨラーを押し退け学校に登校し(つまり遅刻)昼休みまで美容の為に睡眠とか(つまり居眠り)お腹空いたら本を盾にして弁当食べたりとか(つまり早弁)昼休みが終わったらまた睡眠と食事で(つまりサボり)下校してぴん子見たりゲームやったり(つまりNO勉)

そんなこんなで1日が終わる。

それを繰り返すだろうと思っていた。いや、液晶画面に向かって黒いコントローラー持った状態じゃそうとさえ思わなかったかもしれない。いや、そもそもボーとしていても思わなかっただろう。

なんせそれは日常というものだから。

頭の片隅にはもう分かっていて、今更それを見返す必要もない。当たり前の事だから。それが日常。


だから私は昨日の夜今日の為に何も準備しなかった。心の準備を。


(今日、・・・)


何があったっけと回想を巡らす。


今日は7時に自然と目覚めて、当然登校するのに校門はちゃんと開いていて、珍しくゴリラとマヨラーはいなくて、授業始まって初めて弁当を忘れた事に気が付いて、イライラと空腹で授業中睡眠できなくて、暇だからノートを仕方なく取って、銀ちゃんに職員室に呼ばれたせいで購買のバトルファイトに参加し遅れ結局昼休み分のご飯しか買えなくて、午後の授業も腹鳴らしたまま授業受けてノート取って、

あれ、これ日常と正反対じゃん。ん?これが普通?あれ?あれれ?


そんなこんなで6時間目が終わって残りはHRだけという時に、不意に酢昆布の箱が頭上を掠めたのだ。

私は無我夢中で追い掛けた。酢昆布しか目になくて、気が付いたら裏庭に出ていた。


目の前にはケバい雌豚の集団。中央にいる一際香水が臭う化け物見たいな奴の手には酢昆布をたこ糸に吊した簡単な釣り竿があった。


要は、私は釣られたということらしかった。(え?馬鹿?いやいや、今日は厄日だから)


内容は、まぁ嫉妬話だ。

あの人に近付くなだー彼が可哀相だー迷惑だー。とてもお決まり。
今時どこかのくさい青春漫画でさえこんな台詞はもう使わないだろうと思われる言葉をまぁ恥ずかしくもなくベラベラと。

そういう事には慣れてるし、その場合は黙っとくのが第一だと心得ているつもりだ。あ、第二の心得は殴って逃げるだけど。


ちなみに私は第二で帰るのが殆どだ。(え?狂暴?いやいや、あっちがしつこいだけだから)


そして今回もそのつもりだった。


でも、そうはいかなかった。
なんせ今日は日常じゃない、非日常なのだから。


『ちょっと、聞いてるの!?』

『聞いてるアル聞いてるアル』

『酢昆布食いながら言う台詞じゃねぇだろそれ!!あんま嘗めた真似してっと・・・』

『どうなるんでィ』


それはさながら颯爽と現れる王子が如く。


夕焼けをバックに現れたそいつ。


まるでヒーローは遅れてくるんだよと言わんばかりの笑みで。でもそれが妙に整って見えたのも事実で。


私は思わず眉を寄せた。


雌豚達はそれはもう顔をお化けの様に真っ青にしながらヒーローの横を通り過ぎ去ろうとした。校内に戻るのならそこしか道はないのは当たり前なのだけど。

ヒーローが笑顔で先頭の雌豚に足をかけ集団をドミノ倒しにしたのにはさすがに惨めだと思った。


見事に敵に一泡吹かせたヒーローは、私を救ったのだ。


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