拍手御礼文

□な行
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な:流れ星

真っ暗な、まるで絵の具の黒を塗った空で星が綺麗に明かりを灯す
きらきらと瞬く
大好きだった
流れると、頭上から落ちてくるんじゃないかと思っていた
必死で手を伸ばせば届くものだと思っていた
この手に掴めないものは何も無いと思っていた

母さんとクッキーを作った時
作ったと言っても簡単な手伝いだけだったけど
その時も幾つもある型の中から真っ先に星が尾をひいた型を手に取った

型を持って両手に乗せる
「亮はお星様にするの?」
「うん」
「亮はお星様好きね」
「大好き♪」
母がクッキーの生地を伸ばす
「今度、幼稚園で観測会があるわよね」
「うん」
「流れ星を見つけたら何かお願いするの?」
星を見続けている
「うんとね…」
「うんとね!お母さんが今以上に可愛くなるようにお願いする〜」
すると母が笑った
「お母さん、嬉しいな」
「でしょ!」
「でもね、お母さんはいいわ」
「何で?」
「せっかくだから亮のお願い事をしたらどうかしら?」
母が亮の顔を覗き込み
くりくりの黒い眸は母を見詰め返した
「亮の?」
「そう、亮のお願い事」
「亮の…」
亮は母の顔から、また目線を手の中いっぱいの星に戻した

自分の事となると、欲しいものは一杯あったし、したい事も一杯あったけど
その時は決めることが出来なかった
どれも違うような気がした

あれから、随分と大きくなって物事が分かるようになった
もう星の形だって分かっている
その正体も知っているし、手を伸ばした処で届かない事も
それに、この手に掴めないものが有る事にも気付いてしまった
そんな今なら何を願うだろうか?
あの頃は何でも信じれた筈なのに
この手は何でも触れることが出来ると思っていたのに…
両手が星(の型)で埋め尽くされる事も無いぐらいに大きくなったけど、あの頃より頼り無くなった
今の、この手は目の前にある彼の肩に触れる事すら戸惑う
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