《お風呂タイム》
「ゾロー、ゾロー!」
ホテルの部屋で観るつもりもなくつけられたテレビを眺めながら五本目のビールを煽っていたゾロを呼ぶ声が、浴室から突如響いて来た。
「…あ?」
んなデケェ声出したら近所迷惑だろうがとぶつくさ文句を云いながら、その間も絶え間なく聞こえる声にへーへーと適当な返事をし浴室のドアをガチャリと開ける。
「何なん…」
だテメェは、と。続けようとした言葉は、目の前に広がった光景に否応なしに飲み込まれてしまった。
「…お前、何やってんだ?」
「見ろよアワアワ〜♪」
改めて見ろなどと云われなくとも、それは視界に入って来るというもので。
濡れて色を濃くした金髪の先からは雫が滴り、浴槽から覗いた首から薄い肩にかけてのラインは艶やかに白く煽情的で…ではなく。
「お前、ホテルの風呂場まで泡塗れにすんなっつっただろうがっ」
うっかり脳内であられもない光景がくり広げられそうになるのを何とか理性で抑えたゾロは、声を荒げる。
いつも家で使う入浴剤が泡だらけになるものを好んで使うサンジであるが、この一泊の旅行にまで持ち込もうとしていたのを全力で阻止したというのに。
「えー、だって置いてあったんだもーん」
怒鳴られたのに肩を竦め、唇を尖らせている。
そんな様が可愛いなどと思うのは、もう末期の証拠か。ゾロは深々とため息を吐き出した。
「…何でんなもんまで置いてあんだよ」
最近のビジネスホテルやシティホテルは至れり尽くせりだが、よもや男にまでこんなにサービスがいいものとは。
というか、アワアワになる入浴剤などを使われてホテル側は手間ではないのだろうか。
「この入浴剤、お肌超スベスベになるからオレ大好き〜」
にへらと笑うサンジは、まるで見せつけるように白い肌を摩ってみせる。
確かに肌は艶めいて、美味そうだ。愚息が今にもいただきますを宣言しそうな勢いである。
「お肌スベスベねぇ…本当か?」
「あ?なにお前、疑うのかよ」
「いや、確かめねぇとわかんねぇだろうが」
「確か…ぅええ?」
云うが早いか、ゾロが浴室内へと入り浴槽の傍にしゃがみ込む。
「どれ」
「え、ばかおま…っ」
アワアワの湯の中に腕を差し入れ、脇腹かと思われる箇所へと指を這わせれば、泡ととろみでするんと滑りサンジに思わぬ刺激を与えたようだった。
「や…っ」
甘ったるい声が浴室に響き、ゾロの唇にはにやりとした笑みが刻まれる。
「おー、確かにスベスベだな」
「や、やめ…」
「動くな、俺が濡れんだろうが」
「だったら出てけ…っ」
「テメェが呼んだんだろ」
「ひゃ、や…っ」
脇腹から下へと指を滑らせ辿りついた薄い茂みをさわりと撫でると、いよいよサンジの声音には愉悦めいたものが混じり出す。
満更でもなさげなそれに、ケダモノじみた表情を浮かべその唇に噛みつくように口づけて。
「ぁむッ」
「…肌がスベスベかどうか、隅々まで調べてやる」
キスの合間にそんな物騒なことを囁き、ゾロは浴衣が湯に濡れるのも構わず身を乗り出した。
「ば、ばか…っ」
その日は朝方まで、部屋の中には可愛らしい嬌声が響いていたとか、何とか。
fin
20110114
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新年あけましておめでとうございます。
この間泊まったホテルの浴室を、アワアワにしてしまったのはワタクシでございます(笑)
アワアワになるサンジって、えりょいよね。
心暖かな拍手、ありがとうございました!!