兄弟文

□flower
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小さな手にしっかりと握られた一本の花を無言で差し出された。
「私に?」
腰をかがめてやらねば目線を合わすこともできない、
少女という言葉がぴったりの、女の子の美しいライトブラウンの髪が揺れた。
「この前は、ありがとう」
消え入りそうな、しかしその小さな感謝の言葉をアルバは確実に聞き取った。
そして、この辺りでは見覚えのない身なりのよい少女の
もう片方の手に握られた楽器ケースに目を走らせる。

そこで思い当たった。
先日、難くせをつけられて立ち往生していたスクールバスがいて、
成り行き上、たまたま居合わせた自分が仲裁に入ったのだ。
確かに、そのときの車体に音楽学校という文字を目にしていたことを思い出す。
目の前の少女はあのとき、バスの窓から心配そうに外の様子を伺っていた、
その彼女だった。

いかにもお嬢様っといった苦労など全く知る由もない
白く細い腕の先の一輪の花をそっと受けとる。
「Thank you, my little princess」
うやうやしく 芝居じみた仕草でアルバがそう告げると、
相手はその頬をまさしくバラ色にして大きな目をしばらくまたたかせた。
それからはっと思い出したように我に返ると、何か言いたげに
しかし、結局は何の言葉を発することはできずに、足早にそこから立ち去った。
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