百鬼夜行
□第一幕
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―…その出会いが、全ての始まり
百鬼夜行 第一幕
……藤乃は退屈していた。
普通ならまだ授業を受けているはずの時間帯である麗らかな昼下がり。
だが、藤乃は何をするでもなく、ただブラブラと町をうろついていた。
今日は先生たちの会議のため、学校は午前授業だったのだ。
クラスメイトたちは連れだってカラオケやらゲーセンやらと遊びに繰り出していったが、あいにく藤乃はそういった一般的な娯楽を好まない。
オマケに、時間が時間なだけに、彼女にとっての"娯楽"(もとい喧嘩)を売り買いする、よろしくない少年たちも町には見当たらない。
(不良の活動時間とは得てして暗い時間、と相場がきまっているのだ)
「あーあ、……ほんとつまんない」
誰に言うでもなくそう呟くと、藤乃はハァと重い溜め息を吐いた。
苛立たしげにガシガシと頭をかくと、道路に転がっていた小さな石ころを鬱憤を晴らすかのように盛大に蹴り飛ばす。
――ヒューン
石はなかなかの速度を保ちながら、綺麗な弧を描いて飛距離を伸ばし……
――ガツッ
「……げ」
……そのままの勢いで、なかなか大仰な音をたて、とある家の門にぶち当たったのだった。
「(やっば……! 門扉に石ぶつけるとか、超!失礼極まりないじゃん)」
普段から母に礼儀やら仁義やらを口をすっぱくして説かれている藤乃。
(一応言っておくが、藤乃の家は母が「仁○なき戦い」の大ファンなだけの一般的な家庭である)
……まあとにかく、そんな藤乃にとってよそ様の門扉に石をぶち当てるという行為は、許し難いほどに礼を欠いた、恥ずべき行いなのである。
「(謝罪にいくべき……?)」
そんなことを思いながら、ゆっくりと視線を移してその門の奥の家屋を視界に捉えたところで、藤乃は俄かに硬直した。
そこにあったのは、今時珍しい木造の、古めかしい……しかし趣深く威厳のある家屋だったのだ。
「……すご、何この立派なお宅」
何か極道のお偉いさんの家みたいだ、などと若干失礼な事を呟きつつ、その家を眺める。
見るからに普通の家とは違う、どこか一線を画したような空気をかもしだすその家は、ひどく藤乃を惹き付けた。
「何か……妖怪とか、いそう」
……そう、藤乃は大の怪奇現象、妖怪伝承好きなのである。
どことなくワクワクしたようにそう呟くと、さっきまでの退屈そうな空気を払拭し、満面の笑みでその家に数歩近寄ったのだった。
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ちょうどその時、その家の住人である少年…奴良リクオは、午前授業の後友人に頼まれたお昼の買い出しを終えて、帰宅しているところだった。
角を曲がり家の門が見えたが、リクオはそこでぴたりと足を止めた。
「(……家の前に誰かいる?)」
門の前に立ち、じーっとその門を見つめている藤乃を見つけたためである。
「(あの制服、うちの学校のだ。でも見たことないし先輩、かな? っていうか、あの人どうして家をあんなに凝視してるんだろう?)」
もしかして誰がが"バレる"ような事したんじゃ……という一抹の不安を抱きながらとりあえず様子を見ていると、彼女が口を開くのが見えた。
「(あ、もしかしてお客さん? いやでもあの人、普通の人間っぽいのに……)」
「よし、忍び込んでみようかな」
「(お客さんでも普通の人間でもなかったー!)」
忍び込むって何だよ!と、見知らぬ少女に心の中で盛大なツッコミを入れたリクオだった。