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□お誕生日コラボン
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SIDE/Y


突然、だった。

何やら不機嫌な教え子を、宥めようとしていただけなのに。

一体どうして、こんなことになったのか。

「何するのネウロくん!!」

勢い良く放られたのはベッドの上。
驚きで発した問いに、見下ろしてきたのは無言の艶笑。

その意図を計れないままに見つめると、その碧は愉しげに細まった。

まるで、拒否も逃避も決して許さないと伝えるように

獲物を前にした猛獣のような威圧感。


ギシリ、彼の片膝がベッドに置かれて。


瞳は瞳に固定されたまま

もう、手を伸ばせば触れられる程の


我に返って思わず身を引く。
途端に唇を唇で塞がれて、その勢いのままゆっくりと後ろに倒された。

「んーーっ…んぅーっ!!!」

こちらの背がベッドに着地したのを確認したかのように、その唇は離されて。


軽い息苦しさから解放され息をつくと、自分の顔の両横に生える白い腕。
真正面というか真上には、色気200%増しな教え子の笑顔。

怒るべき、なのだろう。

でも、どこか真摯なその瞳に何とも言えない気持ちになって、口にすべき言葉が決まらない。

仕方なく涙目で睨み上げると、

にこり。

かえって嬉しそうな微笑。


その反応に少し戸惑うと、唇がゆっくりと降りてきた。


額と右瞼に触れるだけのキスを落として、熱い目尻をひと舐め。

鼻を啄まれて、左頬から首筋へ。
その謝罪にも似た優しさに、何故か止める気になれなくて。

鎖骨を辿り、その中心でくわえ直すかのように軽く吸い付いた後、真っ直ぐ下へ降りていく。

どこまで下がるつもりだと慌てかけた時、左足を掴まれて、ソレは彼が身を起こすとともに持ち上げられた。

「ネウロ…くん?」

胸元から顔を離し、膝立ちの姿勢になった彼を戸惑いの目で見上げれば、ますます愉しげな艶笑。

その笑顔が、ゆっくりと脚に近づいて。

「ネ、ネウロくん??あの、ちょッッ!!」


薄い唇から覗く紅い舌。

それが、タイツごしに脹ら脛を這う。
同時に、太股を揉むように撫でまわされて。

「や、だ!!ちょっ…ぁあっ」

一気に、熱がまわる。

停止を求めて縋るように見上げれば、その口角が満足げに吊りあがって。


「右足、浮いてますけどお強請りですか?」

「違…っ!てゆ、か ヤメ…ッ」

右足を理性でベッドにおさえつけ、漏れ出そうになる嬌声を必死でかみ殺しながら言葉を吐き出す。

「やめ…ないで、ですか?」
「ぎゃく!!!」

余裕の笑みでなおも口付けてくる中学生が心底こにくたらしくなって、歯噛み。

いっそ蹴り飛ばしてやろうかと右足に反動を着けたとき

「!!??」

左足の親指を咥えられて。

「きっ汚い!!汚いからっ!!」


あまりの衝撃に上半身を起こすと、溜まっていた涙が零れた。

「キュって丸くなるのが可愛かったので、つい」

「なっ…!!っいいから離してーっっ!!!」

手を伸ばし、足を振り上げて抵抗するも、不思議と相手には掠りもせず。

慌てて背を向けて逃げ出そうとすれば、背後から羽交い絞めにされた。


「イヤ、です。」

背中に直接伝わる振動は、とても真摯な響きを持って。


でもコチラだってこの状況は嫌なのだ。
この妙な感覚ごと振り解こうともがくが、その質量は余計に密着してきて自由を奪う。
辟易していると、背後から延びる白い手が、衣服の裾を捕らえるのが見えた。


慌てて抗議の声をあげて細い腕を掴むが、それらの抵抗は当然のように無視されて。
ゆっくりと、順調に、衣服が持ち上げられていく。

それと同時に、冷たい指が両脇腹を微かになぞり、中指がスッと肋を辿って。

その度に腰は跳ねて、彼を阻む力が抜ける。


だいたい、いつもならこんな戯れは、とうに終わってるはずなのだ。

いつもなら、もっと戯れらしい戯れが、どうして今日に限って


「先生、腕あげて」

考える暇も与えず発される要求。
頭を精一杯横に降り、彼の腕を力いっぱい握りしめると、背後で失笑とも溜息とも取れる気配がした

瞬間

「やんっ!!ミゃ…ふ、ぁぁっ」


剥き出しになった背中の腰付近から上にむかい、背骨を舌で辿られて。

寒気とも熱気ともつかない甘さが身体を駆ける。
耐えきる間もなく、プチ、と軽い音が背後で響いて。

一瞬、何がおこったのか判らなかったけれど。


胸元が緩む違和感。
背中に唇の感触。


…このガキ

背中のホック、外しやがった!!??///


およそ有り得ない事態に、慌てて両手で胸をおさえると、それを待っていたかのように一気に衣服が捲りあげられた。

すんなり頭を通り越し、胸元をおさえる腕でその布は止まる。

肌に直接触れた外気に驚く暇もなく、それと肌との間に白く冷たい両手が侵入してきて。

「や、ネウロく…んんッッ」

いくらなんでも叱ろうと口を開いた瞬間、膨らみの中心を軽く押されながら首筋に吸い付かれて、頭の芯が大きく揺らいだ。

「あん…っや、も…っ ネウロく、…本当にやめて!!」

なおも弄んでくる指先に、パニックになりかけながらも布越しに爪をたてると、彼の右手が胸から離れてスカートの中へ。

タイツごしに、下着のラインをそっと辿られる。

「ヤっ!だめだってばっ!!」

慌てて膝を固く擦りあわせるも、周辺を柔々と撫で回されて、やがて隙間に侵入してきた一本に、中心を押された。

たまらず引き剥がそうと掴んだ手が、そのまま柔く握り返されて、肩上まで持ち上げられる。

ちぅ、口付けられる感触が、手のひらを伝わって。


足から離れた手には安堵したし、落とされるキスは、優しく柔らかいものだった。

けれど、涙はあふれて。
心は、疲労感と空虚感に支配される。

ああ、コレは

この子と出会ったばかりの頃に感じたものと、同じ種類の冷たい暗闇。


「ど…して、こんなこと…っ」

たまらず漏れる嗚咽。

それはこの行為に対してか。
それとも、その根底をいつまでも理解できない自分自身に対してか。

それすらもわからなくて。


「…どうしてだと思います?」

ややして返された声は少し掠れて
こんな時なのに、どこか甘い。


「…わかんないよ」

「では、宿題です」

愉しげで、少し冷たい声音。

ピンッと、胸の突起が弾かれて

「んッッ」

手から離れた手が、下着の中に


「や、ぁ、…っ」

頭に、警鐘が鳴り響く。

行為に対して。
それ以上に、今の状態で受け入れる事に対して。


「き、らいにっ…なるよっっ」

暴れる熱の中、必死で手繰り寄せたいつかの言葉。

たしか、あのときこの人は、「ズルイ」とむくれたのだけれど。


ピタリ、

動きが止まって。


「できるんですか?」

耳元で響いたのは、嘲笑のような声。

その言葉に、心臓が止まる錯覚すら覚えたのは、寧ろコチラで。


“できるよ”と、答えれば良いだけだ。

頭を、縦に振れば良いだけだ。


なのに何故だか、息が詰まって動けない。


答えられずにいると、胸と足から引き抜かれた腕に、乱雑に後ろへと引き倒された。

ベッドスプリングの反動を感じる間もなく、両肩をベッドに押しつけられて


「貴女は」

乱雑な動きとは対照的な声が、真上から降り注ぐ。

その少年は、きっと微笑っていると思ったのに。


「僕を嫌いになんてなれない」


それは予想とは違う、射るような真剣な瞳。


どうしてそんなに必死なのか。

ますますわからなくなって、わからないことが、悲しくなる。


「どうしたの…ネウロ」


手を伸ばして抱きしめると、身体に相手の体重が沈み込んできた。

重みと温もりで一瞬息が詰まりそうになった時、囁くような声が


「……僕が例え何者であっても」


ああ、

それは。



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