万華会議録
□議題2(全14P)
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玄関の前に立ち、いつもの儀式をする。
目を閉じて、深く呼吸を繰り返す。力が全身の末梢まで充ちるのを感じてから、キヅは目を開けた。
ゆっくりと、重い玄関を開ける。
「ただいま」
「お帰りー」
キヅを迎えた声は、警戒した者ではなく、母親のものだ。無意識に構えていた肩から、力を抜く。
「兄さんは?」
「まだよ。ミルクレープ買って来たんだけど、食べる? ちょうどお茶にしようと思ったとこなの。」
「…今は、いい」
漂っていた香りは、キヅのお気に入りであるローズヒップティーだ。
けれど、キヅは香りから顔を背け、自室への階段を上っていった。拾った本の、確認をしたかった。あとはゴミ箱に投げ捨てて、それからお茶にしよう。紅茶が冷めないうちに。