万華会議録

□議題2(全14P)
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 よくみると、それは本と言うのがはばかられるような粗末なものだった。子供が広告を束ねてホチキスでとめて、遊びにでも使うような代物だ。

 『魔王召喚
 ・魔王に会ってみよう!!
 ・魔王の生活、基礎編
 ・魔王の好きなもの、嫌いなもの』

 けれどその推測は、表紙の達筆な筆文字に打ち砕かれた。作者はれっきとした大人だ。ただし、この表紙を見るだに、知り合いたいとは思わない。
 次の2,3ページには文字が書いてあったが、残りはすべて白紙。
 すると、この白紙のページは本の体裁を整えるためのものか?
「…素晴らしい大人ですこと」
 キヅは皮肉な笑いに口元を歪めた。
 作者はどんな精神状態でこの本を書いたのか。正常だとしたら、社会で本当に生きていけるものか、甚だ怪しい。例え異常だとしても、それはそれで別種の恐怖を煽る。
 やはり、拾うべきではなかったかも知れない。
 そう思いながら、キヅは部屋を出て、台所に向かった。本の指示通り、召喚に必要な物を取りに行くために。
 どうせ捨てる物。ならば試してからでもいいだろう。
 常ならば、捨てる物は何のためらいも無く捨てていたはずだが、その矛盾すら彼女は認識できずにいた。
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