万華会議録
□議題2(全14P)
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「お母さん、お茶貰うね」
「ああ、ポットに入ってるわ。まだ熱いと思うけど」
母親の言葉を聞き流しながら、キヅは手早く物を揃えた。蓮華の浮き彫りがある小さな盆に乗せ、危なげの無い足取りで階段を上る。
指示された召喚道具は、2人分の紅茶とお茶請けと座布団。それだけだ。
特に食べたいわけでもないので、とりあえず使ってみる。ちなみに、もう一つは兄の分だ。先手を打って謝れば、波風がたつことは無い。
もっとも、兄が自分に向って機嫌を損ねることはない。その溺愛ぶりは、いっそこの世から消したいほどだ。
机に盆をのせてから、心の苛立ちを、部屋の窓にぶつける。兄は嫌いではないし、何故か様々なところに顔が利くものだから、利用させてもらっているが、だが。溺愛だけは何とかして欲しい。窓は甲高い音を立てながら開け放たれた。
空の端は、既に群青が染み渡り始めている。入り込んできた涼風に、一瞬身を震わせてから、キヅは部屋の外に出た。窓際に2人分の座布団とお茶だけが残った。
胡散臭いが、これで3分待つらしい。インスタントじゃあるまいし。
何故か、特に根拠もなく語呂で決めているような気がする。本の書体も、まるで焦って書いたかのように乱れている。
廊下の突き当たりの鳩時計を見ながら、再び本に思いを馳せていると、物音がした。陶器の触れ合う、硬質な音。
向かいの、兄の部屋ではない。背中を預けている扉の中。
…自分の部屋からだ。
思わず、時計を見る。秒針はやっと2周目だ。
体当たりの勢いでキヅは戸を開けた。