万華会議録

□議題2(全14P)
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『ポイ捨て禁止』
『守ろう きれいな町』
『三陸沖直送の店 弾丸鮪伝説』

 キヅは一瞬、電柱の貼り紙を見つめた。
 一番ひかれたのは、鮪を正面から描いた居酒屋のものだったが、視線を無理矢理上の方に逸らす。
 風雨と日光と、子供かあるいは子供の心を持った大人に、前衛的な文様を描かれた美化ポスター。
 たっぷり5秒間、視線を固定して、それから彼女はゆっくり前を振り向いた。
 天啓のように落ちてきた一冊の本。
 本を降らす雲などあるまいが。それでも頭上を見上げると、夕陽を遮って穏やかに発光する雲が、まばらに流れていくだけだ。
 普段の自分なら、まずこんなことはしない。自信を持って言える。それでも本を取る手を止められないのは、突然目の前に降ってきた不自然さのせいだ。

 どこか、意識の片隅で、誰かが満足気に笑んだ気がした。
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