虚しい関係

□露見する関係
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アスランは異例の早さで与えられた任務を片付けた。
そもそも優秀なコーディネーターだ。普段手を抜いているつもりはなくても、目的があるのとないのとでは、やはり大きく違ってくる。

ブルーコスモスの亡霊を暴き出すのはアスランにとっても挑みがいのある作業だった。なんのためにあんな辛い戦争を体験するはめになったのか。勿論複雑な事情が絡み合って、決して亡霊のせいばかりではないのは分かっているが、彼らが原因の一端を握っているのは確かである。遺伝子操作なんて神の領域に踏み込んだ愚かな所業だという彼らの主張も納得出来ないではないし、コーディネーターに対する劣等感を握り潰すのが難しいのも理解出来る。でも彼らは表現する手段を間違えた。力に任せて相手を屠るなど論外であるし、ましてやなんの罪もない一般市民が巻き込まれる形で発散させるなんて、絶対に許すわけにはいかなかった。
それにキラの身を守るためでもあった。このままなし崩しにして、またキラがブルーコスモスの標的になるようなことがないように。
(───でも、なんでキラだったんだ?)
ふと思い至った疑問に、アスランの作業する手が止まった。
今回の調査は予想を裏付けるものでしかなかった。つまりブルーコスモス残党はもう録な戦闘力を持ってなかったのだ。組織立ったものは壊滅状態であるし、先の戦争で武器らしい武器も失っていた。新たに揃えようにも資金源だった“黒い商人”もまだ他者に金を流す余力はない。だから認めることはなくても、自爆テロという彼らの取った手段は、酷く納得の出来るものだったし、組織自体がないのだから“犯行声明”などという“建て前”もなかった。
単に“コーディネーター憎し”で衝動的に起こした、稚拙極まりない犯行だったのだ。とはいえ衝動に任せてこんな大それたことを起こすほどコーディネーターを憎んでいるのなら、常からオーブに拠点を構えるアスランの方が、余程ターゲットにし易かったのではないだろうか。
(まぁ…“あり”といや“あり”なのか?)
なんといってもキラは今や“ナチュラルの象徴”であるカガリの双子の弟だ。流石にあの“白い悪魔”のパイロットだったことまでは知られてないだろうが、プラントに於いてもかなり高い位置にいる。望む望まないに関わらず、肩書きだけは恐ろしく派手で、“見せしめ”にはうってつけの人材ということだ。
アスランも肩書きは派手だから、対外的には偽名を使うようにしている。普段から気を付けてはいても、流石にこんな展開は予想の範疇を越えていたから、改めて気を引き締める必要があった。




調査結果がオーブ行政府へ滞りなく送信されたのを確認し、アスランは一旦肩の力を抜いた。

因みに今アスランがいる地域は、オーブの首都からかなりの距離があったりする。
先述のようにブルーコスモス残党を調査する任務自体は吝かではないのだが、最初にこの場所に行けと命じられた時には正直「何故?」と思った。
尤もアスランは相変わらず首長連中に良く思われていないから、何事に於いてもわりと蚊帳の外にされがちなのは確かだ。“新参もののコーディネーターでおまけに元ザフト兵”というレッテルを一々剥がして回って、彼らのフェイズシフト装甲並みに固い頭を柔軟にするよりは、こちらが諦めた方が早いから、敢えて見ない振りをしているだけで。

但しそんな彼らも今はアスランを遠ざけておかなければならないような謀を企てる余裕はないだろうから、この赴任先は彼らの都合で決まったのではないと仮定出来る。
ならば考えられる可能性はそう多くない。


キラがオーブに来ているのだ。


こちらがブルーコスモスの現状を把握するのと同時進行で、ポートのプログラムを強化するのは必然だ。アスランも以前請われてちょっとしたシステムエラーを直したことがあるが、オーブ側のシステムは恐ろしく旧式のものだった。加えて所々で手を加えたりしているせいで複雑に絡み合って、並みのプログラマーでは中々太刀打ち出来そうにないシロモノになってしまっている。まるっと新しくするのが一番手っ取り早いのだが、既存の旧式をひっぺがすだけでもかなりの知識と労力を必要とするだろう。状況と才能を鑑みてキラが担ぎ上げられるのは火を見るよりも明らかだったが、如何な天才プログラマーでも遠隔操作だけではどうにもならないはずである。

まさかアスランとキラの間にあったアレコレがカガリの耳に届いているとは思えない(届いていればアスランなどボコボコにされているだろう)から、シンやメイリン辺りが要らぬ気を回したのかもしれない。

(もしくは、キラ自身が望んだのか)

最後の可能性でないことを願いつつ、アスランは立ち上がった。

あとは撤収作業を残すのみである。





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