虚しい関係

□未来への関係
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「おーい!ヘタレてんじゃないぞ!ヴィジーから聞いてるからな。お前さん、ザフトのフェイスまで務めたこともあるエリート軍人だったんだろ〜」
「いや、そんなこと言われても…」
アスランは少し離れた場所から大声でどやしつけたカズに聞こえない程度の小声で反論した。



地球の天候は気紛れで、まだまだ全てを予想することは不可能だが、このシーズンに凍てつくような気温になる日は多分もう来ないだろう。日によっては春が来たんだなと実感出来るような温かい日差しが一日中降り注いだ。
そんなある日のこと。
「人数も増えたことだし、畑を広げてみっか」
カズがぽつりとそう言った。
それからというもの、アスランはオーブ軍での非番の日には毎回のように共に畑仕事に駆り出されていて、慣れない作業に四苦八苦し、カズに大笑いされるまでがワンセットの日々を送っている。

ブツブツと口の中で文句を並べるアスランに近付いたカズは、わざとらしく耳に手を翳した。
「ん?なんか言ったか?」
「いーえ!別に!!」
吐き捨てて、畝を作る鍬を振り上げた。


小さな集落の更に外れに位置するカズの住まい。周辺には未開の地が広がっていて、かなりの土地を買い取った。田舎の良さか四人で出資したからか、アスランやキラの貯えをさほど切り崩さなくても、資金は充分こと足りた。その新しい土地に小さな家を建て、二人は休暇の度に共に過ごすようになっている。本当なら退役を申し出たのだが、彼らの能力が得難いものだったため、残念ながら現在は保留という形のままだった。


「そんなへっぴり腰で。コーディネーターっつっても大したことないんだな」
「確かに俺はコーディネーターですけど、初めてやることに対しては全て初心者ですからね!」
「違いねぇか」
カズは納得したように頷くとアスランに歩み寄り、身振り手振りで鍬の持ち方や姿勢を改めてくれる。とはいえ体力的にキツいことは変わらない。
アスラン自身も農作業を舐めていた。軍人として鍛練を怠ることはなかったし、これまで初めて体験することでも、人並み以上に出来てしまう器用さを持ち合わせていたからだ。
だがどうやらこういったことに適性はなかったらしい。白兵戦に不自由しない体幹も、農作業に使う筋肉とはまた違うのだと突き付けられていた。


それでも気を取り直して作業に勤しむアスランの耳に、控え目に笑う声が届く。
「…………キラ…」
顔を上げて見回すと、いつの間に来たのか、すぐ傍にキラが立っていた。
「そんなとこに居たら危ないぞ」
情けないところを見られていたバツの悪さでぶっきらぼうに外方を向いたアスランに、キラは無理矢理笑みを消して「ごめんね」と小さく謝罪した。
「でも大丈夫。僕だってカズさんには散々怒られたんだから。農作業に関してはアスランより先輩だよ?」
「キラの体力じゃ殆ど戦力にならなかっただろ?」
「そこは否定しない」
差し出されたタオルで汗を拭くアスランを横目に、カズに向かって手にしていたバスケットを翳す。
「差し入れ持って来ました。日差しも強くなってますし、一息入れませんか?」
「有難い」
カズはあっさりと農機具を放り出して、アスランにも作業の一時中断を促した。

少し離れた木陰にシートを敷いて、バスケットの中を広げると、腰を下ろしたカズが豪快にサンドウィッチにかぶりつく。
「食うのもいいが、ちゃんと水分も取れよ」
苦言を呈しながら、一緒に来ていたジョイスがカズの隣に座る。生返事でキラが差し出した紅茶のボトルをこれまた豪快に煽った。
アスランもキラから受け取ったボトルの中身を一息に全て飲み干す。自分で思っていたより喉が乾いていたようで、全身に染み渡るかのようだ。
「今日はジョイス医師と患者のところを回ってたんだろ?そっちの進捗状況はどうなんだ?」
「うーん…そろそろ電子カルテの本格稼働に移行出来そうかな」
甘い焼き菓子を摘みつつ、キラが曖昧に首を傾げる。それを受けたジョイスは忽ち苦い顔に変わった。
「後の問題は俺が使いこなせるかどうか、だな」
「へー珍しいな。初めて見たぞ。お前が苦戦するところ」
カズが茶化し気味に口を挟んでくる。何故か嬉しそうなカズの頭を、ジョイスが軽く叩いた。

話題の電子カルテはキラの組んだプログラムで構成されている。一応コーディネーター(落ちこぼれだが)とはいえ旧式のシステムを騙し騙し使っていたジョイスでは、自在に活用するにはまだまだ研鑽が必要なのだろう。
しかしアスランはキラに胡乱な視線を送った。
「また滅茶苦茶なプログラムを組んでるのか、お前」
「そ、そんなことないよ!」
「いや、アスランくん。俺が疎いだけだから」
「先生も甘やかさないでいいですよ」
アスランはジョイスのフォローを一蹴する。
キラのプログラムはキラの中だけで筋が通ったもので、他者が理解するには極めて難しいものなのだ。





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