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蒼い月が見ていた(完結)
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蒼い月が見ていた。

あの日と同じ蒼い月が。



その時僕は――――。




◆◆◆◆


少々掟やぶりな訪問にも、ラクスに気にした素振りはなかった。
彼女が仕事に使っている個室へ会議を終えて戻って来ると、先に中に居て、椅子に座って退屈そうに執務机に肘をついていたにも関わらず、だ。

「遅かったね」
揶揄いを含んだ口調。
「くだらない会議なんかに付き合うのも大変だね」

この部屋には10桁の暗証番号付きのロックがあるのだが、キラにとってはものの数ではないのだろう。それにハッキングのスペシャリストに、今更こんなちゃちなロックなどで隠さなければならないものなど皆無であった。
キラにかかれば機密の防御など丸裸も同然なのだから。

「…お呼び立てしてしまって、申し訳ございませんでしたわ」
「こっちこそ遅くなってごめんね。ちょっと遠い場所にいたものだからさ」
ラクスがテレビのインタビューに応える中でキラにしか判らない暗号を送ったのは、一週間ほど前のことになるか。火急の用件ではなかったからそれは別に構わないが。
「どちらにいらっしゃいましたの?」
それにキラは曖昧に笑っただけで明確な答えは避けた。

「今回は何の用?」
「先日、プラント最高評議会議員の一人が暗殺されました」
単刀直入にラクスは言った。
キラを相手に飾っても仕方ない。
「みたいだね。暫く世界を賑わしてたから、そのニュースは僕も知ってるけど」



件の議員はもう随分と古参の議員で、ラクスたち新参者をどこか小馬鹿にしている節があるのを隠そうともしない、扱いの困る相手だった。纏わる黒い噂も有る議員だったが、残念ながら排斥するほどの明確な証拠も掴めずにいたのだ。





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