虚しい関係

□戻らない関係
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「…―――えーと、何から話していいものか…。まず、アスランが敢えて言わなかっただろう僕に関することから、でしょうかね。アスランは僕をザフト所属の軍人だと言いましたが、それは間違いでもなければ、正確でもありません」
「どういう意味だ?」
「実は僕、オーブ軍にも所属してるんです」
「は?」
まるで知らない言語を聞いているかのような二人に、これが普通のリアクションだよなと内心で自嘲する。
「信じられなくて当たり前です。まして――真相はさておき、表向きにはプラントとオーブは敵対関係にあった。その両軍に籍があるとかまず有り得ないですよね。でも本当なんです。両国の現代表者が志しを同じくする無二の戦友ってことも理由のひとつですが、それに加えて僕の出生が大きく作用してるんでしょうね」
「生まれ、とは?」
「流石に現オーブ王はお二人ともご存知ですよね。僕は彼女の弟に当たります」
「「お、弟!?」」
見た目も性格も全く違う二人の異口同音での鸚鵡返し。そんな場合ではないというのに、キラは何だか可笑しくなってしまった。
「おい、キラ!」
当然、アスランの制止の声は厳しいものだったが、まるで手品の種明かしをするようなワクワクした気分が損なわれることはなかった。危ない話にも関わってしまうから、知ってしまうことで彼らに危険が及ぶ可能性がゼロでないのは、キラにも分かっている。そこは無駄に大きい権力を最大限に行使してでも守るつもりだし、自分の抱えた重い荷物まで彼らに背負わせるなんて以ての他だ。全部話そうと決めはしたが“話せる範囲で”が大前提なのは、アスランに言われるまでもない。キラはアスランに構わず話し続けた。
「現オーブ王のカガリは養子ですから、名君で名を馳せた前王ウズミ・ナラ・アスハと僕には血縁関係はありません。ですが僕と彼女は正真正銘、血を分けた姉弟なんです」
そんな大物、何故すぐに分からなかったのか。その理由なら簡単だ。彼らは“王弟”の顔を知らなかった。国民に向けて大々的に発表しなかったし、そもそもカガリならまだしも王弟では表舞台に立つ機会など早々ない。加えて王族としての振る舞いなど求められても困惑するだけで億劫だったのと、欲してもいない継承権などに纏わる柵みが煩わしく、避けられない時にだけ渋々顔を出していたというキラ側の事情もあった。田舎でのんびり暮らす人々が気付かなくて当然なのだ。
「戦争中は現プラント評議会議長のラクス・クラインと共に戦うことが多かったんで、ザフト軍に落ち着くのが正道なんでしょうが、王弟という身分ではそれだけじゃ済まなくて…。まぁ、苦肉の策みたいなものです。しかも僕、カガリとは双子なんですよね」
「いや、いやいや、ちょっと待った!」
余りにも普通に重大発表をぶっこまれて、カズはグシャグシャと髪を掻きむしった。ジョイスはというと、既に白衣のポケットから取り出した小型端末を操作し始めている。すぐに大きく目を見開いたジョイスは、無言でカズの顔前に画面を突き付けた。大方、滅多にないオーブ王弟としての務めに従事していた時の画像でも拾ったのだろう。ひょっとしたら件のオーブ軍閲兵式典のものだったのかもしれない。それなら隅の方にキラの姿が映っていても不思議ではなかった。
「…………王弟って、本当…なのか?」
ゴクリと喉を鳴らして、カズの視線がキラに向けられる。身に覚えのない勲章をジャラジャラと飾り付けられた正装で、偉そうに(した覚えはないが)ふんぞり返っている画像を見られたに違いない。キラはバツの悪さに眉間に皺を寄せつつ頷いた。
「あの戦争さえなければ、真実は闇に葬り去られたかもしれないっていう、曰く付きの身分ですけどね。その“曰く”の所為で僕が王弟として正式に認められたのは、戦後…ごく最近だったりするんです。それまでは何も知らずに普通の家庭で育ちましたし、所謂新米王族だから、貴方がたが僕の存在を知らなくても不思議ではありません」
「いやー驚いた。どうりで警察に問い合わせても、手がかりがないわけだ。王弟の捜索願いなんて、普通の警察じゃ管轄外だろうしなー」





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