虚しい関係

□正しい関係
2ページ/14ページ




それまでの淡々としていた表情が歪められたのがなんとも痛々しい。
それでもすぐにキラは元の笑みを取り戻した。
「てか、そういう話はこんな歩きながらするものじゃないでしょ。関係者みんなの前で、正式に報告するから」
そう言ってキラはくるりと踵を返してしまった。今のは「後で報告書でも読め」と同義だ。キラはたった一言でアスランを“その他大勢”にしてしまったのだ。
「忙しくなるかな。車はどこに停めてあるの?」
「町外れに空き地があるだろ」
「あぁうん。ならこっちの道からの方が早いから」
先導するキラからはさっさと二人きの状況から逃れようとしている様子が、ありありと伺い知れた。意図を隠そうともしないキラに、アスランもそれ以上かける言葉を見失う。長い付き合いだが、キラに何を話していいのか分からないなんて、初めての体験だった。




◆◆◆◆


車に乗っても沈黙は続いた。会話が弾んでいたわけではないが、閉じられた空間では、尚更静寂を意識してしまう。アスランにとってはかなり気詰まりな状態だったが、キラはまるで気にとめている風でもなく、流れる景色に視線を向けたままだった。ただリラックスしてシートに身を預けた姿とは裏腹に、目は深刻な色をしていたから、景色を見ているようで、本当はこれからのことを考えているのかもしれない。


「…――――アスラン」
「っ、なんだ?」

ごちゃごちゃと思考を巡らせていたアスランは、急に名を呼ばれて反応が遅れた。いつの間にか外を見ていたはずのキラが、アスランへと顔を向けている。ハンドルを握っているアスランは、当然キラに向き合えないのがもどかしい。

逆にキラはこの時を待っていた。
真正面から向き合うのは、まだ辛いのだ。
「今しか言わないから、しっかり聞いて」
気になるのだろう。アスランがチラチラこちらへ視線を向けようとするが、やはり表情から何かを探ろうとするところまでは至らない。
「ひょっとして…全部バレちゃってる?」
「!」
絶句したアスランの反応から、キラは全てを汲み取った。肝腎な部分を限界まで削ぎ落とした質問だったが、それで通じないほど二人の仲は薄くない。
「……どうやって?」
アスランもここに至って、隠すつもりはなかった。
「お前の捜索中、偶然なんだが、お前と“そういう関係”だったっていう男に会った」
「そう…」
ダーバンは賢い男だ。“誰か”の代わりだったのはとっくにバレていただろう。アスランに会ったというなら、何故“自分”だったのかも察したに違いない。
アスランに罪悪感を抱かせないために“偽りの恋人”にして、利用するつもりだけの男でも、アスランに似た相手しか選べなかったのは、他でもないキラ自身だ。
「ごめんね。こんな最悪の結末で」
「……」
「やっぱり僕なんかが誰かを救えるなんて、おこがましいにもほどがあったんだよね。これでも一応、きみが傷付かないように、本当のところは内緒にしておくつもりだったんだよ?」
でも、やっぱり駄目だった。鉄壁だと自負していた口許が歪む。
声を詰まらせないように話すのが精一杯だった。だからこそキラは、アスランとまともに顔を合わせられない、今を選んだのだ。
自分はどこまで臆病で、狡い男なのだろうかと思う。そしてこんな取り返しがつかなくなってから、一世一代の告白をしなければならなかった運命が、ちょっぴり恨めしかった。
(普段、運命とか、信じてないくせにね)
自分で自分を茶化す。少しも明るい気分にはならなかったが、小さく息を吸って、腹に力を込めた。


「綺麗事を全部取っ払って言うよ。僕ね、アスランが好きだった。ただそれだけだったんだ」




好きな人に幸せになって欲しがった。カガリを失って、堕ちていくアスランを見ていられなかった。
なのに臆病で素直じゃない僕は「救うため」だと言い訳して、アスランのセフレの地位を手に入れた。救いたかった気持ちに嘘はない。

でも本心は違うのだ。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ