虚しい関係

□正しい関係
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これで相応の対策は立った形だが、ラクスの心が晴れることはなかった。
放っておくにはもう限界だと分かっている。なのに先に進むのはどうにも気乗りしない──というところだろうか。ラクスにしては大変珍しい感覚だった。

自分では役不足ではないだろうか。もっと適任者がいるかもしれない。大好きなキラを傷付けたいはずはなくて、ともすればそんな言い訳で二の足を踏もうとする。人払いしたのは彼の名誉を守りたかったというのが主な理由だが、踏ん切りのつかない自身を追い込むためのものでもあった。

兎にも角にも“それ”に言及しなければ始まらないのだ。味も香りも感じなくなった紅茶でカラカラに乾いた喉を誤魔化し、ラクスは意を決して重い口を開いた。

「・・・・・・ここからは最高評議会議長としてのわたくしではなく、貴方の友人としてお話させてください」

やっぱり来たか、という感じだった。
ラクスは言わずもがな、キラだって他人からすればかなりの高官だ。公人としての仕事を優先するのは至極当然で、そちらに一応の結論が出た今、私的な話になるのは不自然な流れではない。キラもあんな型に填まった“報告”などで済ませてくれるなどと、僅かに残った甘い考えは捨て、腹を括った。
「ラクスが聞きたいのは、どこから?」
「わたくしはこれまでキラの気持ちに言及することを避けて参りました。例え報われなくても、他人の忠告などで諦められるなら、誰も苦しんだりしない。敢えて茨の道を選んでも、人の心は自由であるべきです」
部妙に噛み合ってないその言葉で、キラはラクスが凡ね顛末を察しているのだと分かった。
「回りくどい言い方はやめようか。お察しの通り僕はアスランが好きだ。恋愛的な意味でね。彼が弱っているところにつけこんででも、手に入れたかった。ラクスが口出ししなかったのは正解。どうせあの頃ラクスに咎められてたとしても、止められなかっただろうし。汚い手にまんまと嵌まったアスランの側にいるのは、虚しさを感じることもあったけど、それすら幸せな時間だったと思うんだから救いようがないよね。しかもさ、こんなことになったのに、彼と疑似恋愛が出来たってことに後悔はしてないんだ。ほんと、最低」
「・・・・・・・・」
「誘いに乗ったアスランにも、勿論止めなかったラクスにも罪なんかない。これは僕が身の程を弁えず手を伸ばした結果なんだよ」
「必死に何かを求める姿を、滑稽だとは思いません」
「そうかもね。でもやっぱり間違ってた。さっきも言ったけど罪悪感と虚しさは常にあった。それに耐えきれなくなった僕は、当初の予定通りちゃんとした恋人を仕立て上げることで、関係を断ち切ろうとしてた。精々お手軽にフッてやって、僕の失恋への餞にしようかな、なんてさ。あと言い訳に聞こえるかもだけど、僕が始めた関係だから、幕引きも僕がしなきゃって思いもあった。だけど未練だよね。モタモタしてる内に想定外なことが起こって、僕が話すより先に他の相手が出来たってアスランの耳に入っちゃったみたい。僕は終止ただのセフレだって姿勢を貫いてたし、アスランからすればとんだ尻軽に見えたんでしょ。それでまぁ軽蔑?されちゃったわけ」
「アスランから直接、言われたのですか?」
眉をしかめたラクスに頷きながら、“想定外”にはシンが関わっていたのだろうなと、若干的外れな考えがキラの頭を過った。先ほどのシンの様子が正しい解だと裏付ける。となるとオーブ側の協力者はメイリン辺りが妥当な線だろうか。
いずれにしても彼らがキラのためにと動いてくれたのは疑いようがない。ただタイミングが悪かっただけなのだ。
「それで勝手に傷付いちゃった僕は、もうアスランと合わす顔なんかなくなっちゃってさ。逃げ出すことで頭が一杯になった。プラントへ逃げ込もうと警備の隙をついてシャトルに乗って…。後はきみも知っての通りです」
おどけた調子で胸に手を当て、軽く頭を下げたキラの心は、きっともうボロボロだ。記憶を無くしていたというが、防衛本能が働いたせいかもしれない。
ラクスはふと、キラは誰かに糾弾されたがっているのではないかと思った。手酷く、悪いのは全てお前なのだと。それをしない自分は、果たして優しいのか酷いのか。
「わたくしもどう話を進めようかと迷ったのですが・・・事実の確認から行かせてもらって構いませんか?」
「どうぞ?もう隠し事なんかする気はない」
「アスランは──キラと同じ気持ちだったのではありませんか?」
「流されちゃって、馬鹿だよね」
あっけらかんと答えられて、ラクスはそうではなく、と軌道修正した。





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