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□隠された本心(完結)
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録画した画像ではなく、手書きの文字なのは、その人の温もりをいつまでも忘れず懐かしむためだろうか。
今の今まですっかり忘れていたが、ザフトの軍人は入隊した直後に、例外なく書くのが慣例なのだ。勿論書き替えは可能だが、たったひとつのそれは、最高評議会議長兼ザフト軍最高指令官の名の元に厳重に保管される。“死亡認定”されれば、それを宛てられた相手へと渡すのも、管理者の重要な役目のひとつ。
それが今、アスランの前にある。

この“キラの死亡認定”を知らされた、今。


アスランはずっとキラが好きだった。いや、好きなどというレベルではない。愛していた。
だが、彼が選んだのはラクスだった。
認めるのは酷く辛かったが、どこか納得もしていた。
戦時中に出会った二人は、目指す世界が酷似していて、一時ラクスがプラントへ戻され物理的に離されても、絆が切れることはなかった。いつしかキラの一番の理解者の座はラクスに取って変わられ、戦後キラはオーブを捨てられない立場になったが、無理を押して彼女の元へ行ってしまったほどだ。
アスランがキラのプラント行きを知ったのは、既に全部決まってしまった後、しかも他人から聞かされてのことだった。受けた衝撃も冷めやらぬままに、キラを問い詰めたアスランは、珍しく感情的になってしまっていたと思う。
対するキラは酷く冷静で、まだオフレコだがラクスが評議会議長に就任すること、慣れない彼女の手助けをすると決めたのだと答えた。
内容も衝撃的だったが、なにより否定し難い温度差が、アスランを絶望の底へと追い落とした。自分はとうの昔にキラの中でそんなちっぽけな存在になっていたのだと、これ以上ない形で突き付けられたと思った。
キラが決めたことに口出しする資格など、お前にはもうないのだと。



為す術もなくキラの背中を見送ったアスランは、心を守るため必死で意識の改革に務めた。
あるのは幼馴染みという関係性だけ。そんな男二人がいつまでも一緒に居られるわけがない。やがては別々の道を進むのは当たり前だ。それが今になっただけで、見苦しく引き留めたりしなくて本当に良かった。自分はオーブから、幸せを掴んだ二人を見守って行けばいいと。
決めるのは簡単だったが、やはり通じ合っている二人や、ラクスの剣として躊躇いなく力を発揮するキラを目にする度、苦いものがこみ上げた。それは飽きることなく続いていて、諦められない自分に何度嫌気が差しただろうか。

この恋が成就するなどと期待していたわけではないが、いつ終わるとも知れない苦行を、それでも背負い続けて行こうと思っていたのに。




「嘲笑っても構いませんわ」
思考にどっぷりと漬かっていたアスランの耳に、ラクスの呟きが落ちた。
「わたくし、貴方からキラを奪えたと優越感にさえ浸っておりました」
改めて見れば、そこには愛した人を永遠に失った、女がひとり。ラクスを小さく感じたのは、初めてだった。
「それが最後の最後でこのどんでん返し。さぞや滑稽でしょう」
しかし自虐的な発言にも、あくまでも強気の態度を崩さない。真っ直ぐ見上げて来た彼女のアイスブルーの瞳は、明らかにアスランを挑発していた。


「ですが騙されていたのは貴方も同じですわ」




◆◆◆◆


アスランは来た時とはうって変わったゆっくりとした足取りで、最高評議会本部の建物を後にした。手にはラクスから託された件の封筒がある。
プラントの作り物の日差しがやけに眩しくて、アスランは逆の手を額の前に翳した。
「……───どこかで生きてる、なんてことはないよなぁ」

キラはラクスの命で木星か帰還する戦艦を“護衛”という名の“監視”に出ていたのだという。プラントでは定期的に特種な鉱物の採れる木星へと艦を送っていたから、輸送船が行き来するのは別に珍しいことではない。だが今回は少々事情が違っていた。戦後追いやられていた反政府勢力の大物が、身分を偽って乗っているとの情報が寄せられていた。ただ真偽は今も分からないままだ。
何故なら、件の輸送船は宙域で原因不明の爆発炎上を起こし、プラントに到着することはなかったからだ。使用しているもので一番古い船だったためだろうと結論付けられた爆発は、周囲の施設など一帯を巻き込む大規模なものだった。
そしてその輸送船の近くにいたはずのキラは───

待っても待っても帰って来なかったのである。





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