虚しい関係

□未来への関係
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求める答えに最短距離で辿り着くプログラムであることに間違いないのだが、如何せんそれを扱う側にもかなりの熟練を要求される代物となっている。
「やっと稼働し始めたポートのプログラムだって、ちょっとトラブろうものならそこらのプログラマーじゃ、絶対に対処出来ないんだぞ。お陰さまで毎回俺が呼び出されてる」
「う…」
流石のキラも正論を突き付けられては、口ごもるしかなかった。


オーブ側のポートのプログラムを安全性を向上させたものに書き直し、プラントと同様の防御力を持たせ、双方稼働したのはつい最近のことだ。ことが人命に直接関わるだけに、細心の注意を払い何度も試用運転した後の採用だったから、発生するトラブルはキラの不備ではなく使う側の不手際が原因だった。しかしキラはプラントでの仕事もあってそうそうオーブに滞在しているわけにはいかない。
そこで優秀なコーディネーターであり、キラの癖を誰よりも知るアスランに白羽の矢が立つのだ。

「…───それは、悪いと思ってるよ」
ゴニョゴニョと謝罪を述べるキラに「まぁいいか」と思ってしまうのは、惚れた弱みというやつだろうか。使う人間を選ぶ代物でも、あれ以上のシステムが望めないのが現実なのだ。


二人の様子を眺めていたジョイスは、唐突に切り出した。
「さて、俺はそろそろ帰るとするか」
「おー、またな」
と、普通にひらりと手を振ろうとしたカズの腕は、しかしがっちりとジョイスに掴まれた。
「お前も一緒に来るんだぞ」
「は?何で!」
「前から言ってるだろ?居間の扉の建て付けが悪いんだ」
「そんなの自分で何とかしろよ!」
「俺は頭脳労働担当。肉体労働はお前に任せると決めている」
「勝手に決めるな!あと、別に今じゃなくてもいいだろ?久々にヴィジーに会ったっていうのによ!」
突然の展開に呆気に取られて見守るしかないアスランとキラに、ジョイスが意味深な視線を送った。
「今だからだよ」
それだけでカズは察したようだ。
「……しょーがねーなぁ」
溜め息で勢いをつけるように、立ち上がりかけたカズを、アスランが見上げる。
「良ければ俺が行きましょうか?ドアの修理くらいなら俺でも──」
カズが渋ったのを見て気を遣ったのだが、伸びてきた大きな手にワシャワシャと髪をかき乱された。
「ばーか。折角気を利かせて二人にしてやろうとしてんのに、お前が行ってどうすんだよ!」
「ぅえ!?」
驚いたキラが思い切り咳き込む。カズはそれを綺麗にスルーした。
「ヴィジーは昨日までプラントに缶詰めだったからな。久々の水入らずを楽しめよって言ってんの」
「〜〜〜〜っ!」
忽ち真っ赤になったキラは耐えられなくなったように顔を伏せてしまった。こんな反応をするほど初心なのに、よくもあんな端っぱな演技など出来たものだと、アスランは妙なところで感心する。
「有難うございます」
さらっと受け入れたアスランを、キラはじろりと睨み上げた。
「なんできみはそんなに普通なの?」
「久し振りなのはほんとだろ?やたらとキラを独占したがるラクスにも、ちょっとは見習って欲しいくらいだ」
「仕事なんだからしょうがないでしょ?」
「護衛と称して宇宙中を引っ張り回すのが仕事?護衛なんかキラじゃなくても出来るだろ。俺からすればただの嫌がらせのマウント取りだよ」
「そりゃまともに銃も撃てない僕じゃ役不足かもだけど」
「そういうことを言ってんじゃない。ラクスだってキラにそんな役割を求めてるんじゃないはずだ」
「?それじゃ本末転倒なんじゃ──」
意味が分からないとばかりに首を傾げるキラを、アスランは笑って受け流した。

キラの価値は護衛などという誰もが代われるものではない。
ただそれをキラ本人に言ったところで、きっと理解は出来ないだろうが。




「さ、それじゃ行くぞ」
「おう」
立ち去り際、カズが思い出したように振り返り、意地の悪い笑みを浮かべて釘をさした。
「明日も遅れずに出て来いよ、アスラン」
「…───分かってますよ」
開墾中の荒地を畑にするには、まだまだやることが残っている。久々に会えたからといって、腑抜けるなと揶揄かっているのだ。嫌々であることを隠さず答えたアスランが可笑しかったのか、キラが堪えられないとばかりに噴き出した。
「じゃーな」
「はい。また明日」
軽い調子で手を振り合い、二人を見送ったアスランは、まだ肩を震わせて笑っているキラの額を小突いた。
「こーら、いつまでも笑ってんじゃない」
「いや、平和だなぁって思ってさ」
顔を逸らしつつ、キラは息を整えた。

カズとジョイスといると平和を実感出来て、幸せな気分になれる。そうなるように明るく振る舞ってくれているのだ。





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