虚しい関係

□未来への関係
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アスランも唇を曲げはしたが、カズたちの気遣いが分からないほど愚鈍ではない。
「確かにな」
「きみがここに移住するって言い出した時は流石に吃驚したけど…今では大正解だったと思うよ」
「だろ」
「アスランの筋肉痛は自業自得だから同情しないけどね」
「言ってろ」
そよそよと吹く風が軽口を叩き合う二人の髪を揺らす。その心地よさを味わうように、お互い暫く無言になった。


「…───聞きたいことがあるんでしょ?」

やがてぽつりと落とされたキラの言葉で、静寂は破られた。
「別に、そういうわけじゃ」
否定はしたものの、あからさまに動揺してしまった自分に、アスランは舌打ちしたい気分だった。案の定、キラにクスクスと笑われてしまう。どうやっても消せない嫉妬心はバレバレのようだ。
「…………笑うなよ」
顔に集まる熱を誤魔化すために外方を向くと、小さな謝罪が返ってきた。
「彼と会ったんだろ?」
「そうだね」
主語を抜いたやり取りだったが、二人は同じ一人の男を浮かべていた。
「僕もプラントとオーブを行き来する身の上だし、彼に至っては木星へ行ってるからね。中々タイミングが合わなかったけど、今回やっと話しが出来たよ」
「うん」
「彼には迷惑かけた上、きみを導いてもらったからね。ずっと謝りたかった」


そう。今回キラがプラントで長期の滞在を強いられたのは、ラクスの護衛の仕事ばかりではなかった。木星からの定期連絡船の乗員名簿にマグ・ダーバンの名を見付け、会えるチャンスを伺っていたせいだ。

シャトル墜落によるキラの捜索に志願したダーバンは、最後まで事態の収拾に務めたあと、木星行きを願い出たという。木星ではMSや航宙艦の製造に必要な貴重な鉱物が取れるため、輸送船は軍の括りで運行されているのだが、如何せん距離が遠過ぎる。一度プラントを離れてしまうと、数ヶ月単位で戻れないことなんてザラなのだ。


「環境の急変に付いて行けなくて一旦戻って来たって言ってた。でもまたすぐに出発するつもりで、次は暫くあっちに滞在する予定なんだって。だから今回を逃せば年単位で待ってなきゃならなかったかもしれない」
「そっか」

返事はするが、アスランからはそれ以上、踏み込んで来なかった。しかしキラはそれが大いに不服だった。
「聞きたいんじゃないの?」
些か刺を含んだ声に、アスランが目を丸くする。
「それはそうだが、いいのか?」
「ここで変な遠慮しちゃうのが、きみのヘタレなとこだよねぇ」
「う、煩いな!あくまでも二人の問題だろ!?興味本位で聞いていいことじゃない!」
「興味本位なの?それにきみは部外者じゃないし」
「そうなのか?」
「僕と共に生きることを選んだんだから、きみは立派な当事者だと思うけど」
「あ、ああ…そっか」
未だ不得要領なアスランに思うところはあったが、勝手に巻き込んだ感があるのも事実なので、キラは取り敢えず話し始めることにした。




◆◆◆◆


最高評議会会議場にある、キラに与えられた個室にダーバンを呼び出し、二人の対面は叶った。流石にマンションに呼ぶのはハードルが高いと判断したのだ。
しかしそれが悪い方向に転がったのか、ダーバンは入室するなり、キラに最上級の敬礼を寄越した。
「そういうの、やめて欲しいんだけど」
不快感を顕に眉間に皺を寄せるが、ダーバンは直立不動の姿勢を崩さない。「そうは仰っても…」
まぁ場所が場所だ。普通(?)に軍人をやってれば、早々潜ることはない門なのも事実。
「いいから。敬語も使わないでいいよ」
「はぁ」
手振りで簡易の応接セットに落ち着くよう指示し、従ったダーバンの前に飲み物のボトルを置いた。すると一瞬目を見開いたダーバンが、小さく噴き出した。
「なに?」
首を傾げるキラに、更に笑いのツボを刺激されたらしい。ダーバンは暫く必死で笑いを堪えた後、涙が滲んだ目を拭いつつ答えた。
「いや。これで淹れたての紅茶とか出てきたら、増々緊張しただろうなって思って」
「悪かったね、買ってきたままで!」
そんなことを指摘されるとは思ってもみなかったキラは、せめてグラスに移し変えるべきだったろうかと恥ずかしくなる。だがその気の置けない“おもてなし”のお陰で、ダーバンの緊張が解れたのならいいか、と無理矢理開き直った。自然に敬語も外れていたから、これで話がし易くなったというものだ。

ダーバンの正面に腰を下ろしたキラは、おもむろに深く頭を下げた。
「───、それ、謝ってるんだよな。何に対する謝罪か聞いていい?」
返って来たのは存外に軽い口調。
顔を上げたい衝動を押さえ込みつつ、キラは無言でそのままの姿勢を維持し続けた。
「ひょっとして、おれを利用した形になったことに対する謝罪だったり?」
「…………」
答えられないでいると、ダーバンが溜め息を吐くのが気配で伝わってきた。





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