虚しい関係

□未来への関係
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キラはわざとらしく欠伸をするふりをした。
「本格的に眠くなってきちゃった。もう寝よ。ほんとに明日、大変だよ」
その台詞にアスランが少し明るい声を出した。
「うん。おやすみ、キラ」
改めて掛け布団をキラの肩口まで引き上げ、背中をポンポンと軽く叩いてくれる。幼子の眠りを促すような優しい仕草に、キラは抗うことなく意識を手放したのだった。




◆◆◆◆


数日後、再びカズとアスランが畑仕事をしているところにやって来ていたキラに、ジョイス医師が歩み寄った。
「きみに会いたいって人が来てるけど」
「え?」
わざわざ先に伺いを立てに来たのは、キラに気をつかってのことだろう。折角息抜きを兼ねて来ているのに、無粋な仕事の話を持って来たか、それでなくてもシャトル墜落の原因となったキラの存在を知って、糾弾しに現れた人間の可能性もあるからだ。
しかし例えジョイスの危惧が当たっていたとしても、キラにそれを断る選択肢はなかった。
「わざわざ有難うございます。どんな人でしたか?」
ジョイスが困ったように眉を下げる。だが隠すつもりもないようだ。
「若い男女の二人組だよ。身のこなしからして多分軍人だな」
「そうですか。申し訳ありませんがこちらへ来るよう伝えてもらっていいですか?」
浅く頷いて立ち去るジョイスの後ろ姿を見送って、キラは全身を緊張させた。異変に気付いたのか、カズが顔を上げ、離れた場所にいたアスランは既にこちらへと向かっていた。



「───、あれ?」
ジョイスが去って暫くして、訪ねて来たという人物たちが遠目に現れると、キラの口からは小さな呟きが溢れた。ほぼ同時にアスランの足も止まる。
「シン……と、メイリンちゃん?」
珍しい組合せだな、と思った。シンはどちらかというと、メイリンの姉であるルナマリアと仲がいいと記憶している。不思議に思っている間にも、二人との距離はどんどん縮まった。


そしてキラのすぐ前まで来ると、二人は揃って深く腰を折った。
「ちょ、なに?」
展開について行けず、狼狽し切った声が出る。それでも二人が頭を上げることはなかった。
「ちゃんと謝らなきゃと思ってたんですが、中々二人で一緒に手が空くチャンスがなくて、遅くなりました。謝って許されることじゃないって分かってますが、それでも──」
「てか、まずは顔を上げてよ!そんな謝られるようなこと、僕には心当たりないんだけど!?」
「だから、それは──」
「わ、私たちが余計なことをしなければ、こんな悲惨な事件は起こらなかったでしょう?キラさんに心労をかける結果になって、本当にごめんなさい!」
流石に女性は強い。シンが思わず躊躇したことを、声を震わせつつもメイリンはきっぱりと言い切った。
(あー、そういうこと…)
ポリポリと頬を掻きつつ、キラは困り果てた。

彼らが負い目に感じることなど、なにひとつないと思っている。シャトルの墜落はあくまでも結果論なのだ。
「謝られても困るよ。きみたちは僕のことを考えて動いてくれたんだから、寧ろお礼を言わなきゃね」
「でも!」
思わず、というように顔を上げたシンは、赤い瞳を増々赤くしていた。彼の美点である実直さに口元が綻ぶ。
「ありがと。僕がこれを言っちゃ駄目なんだろうけど、どんなに誤魔化そうとしても今幸せを感じてるのは、間違いなくきみたちのお陰だから」
「────」
三人からは距離があったアスランにやり取りはよく聞こえてないはずだが、キラの言葉に合わせるようにシンたちに向かって小さく頭を下げた。

キラは穏やかな声で促した。
「会いに来てくれたのは嬉しいけど、少しでも思うところがあるのなら、墜落現場に行ってあげて」
既にシンもメイリンも顔を上げていたが、今キラがどんな表情をしているのかを見ることは出来そうにない。
触れてはいけない部分だと思うから。

メイリンは手にしていた花束を大事そうに胸に抱いて頷くだけで答える。
「あ、あとこれ」
言いながらシンは持っていた大きな鞄をゴソゴソと探り、目当ての物を取り出して差し出した。

それは手のひらに収まってしまうほどの、小さな鉢植え。



「いくら吹き飛ばされても、僕らはまた花を植える、んでしょ?」



戦争が終結した後、集まった慰霊碑の前で、キラが言った言葉だ。

「───っ、そう、だね!」


うっかり泣いてしまいそうになった。が、いつの間にかすぐ傍まで移動していたアスランに肩を優しく抱かれ、寸でのところで部下と年下の女の子にみっともない部分を見せずに済んだ。

が、その後がいけない。






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