□年越し(完結)
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突然聞こえた爆発音に、強制的に眠りから醒まされた。目を開けても視界は真っ暗だったから、一瞬自分が何処に居るか判らなくて焦った。
いやほんというと、戦場じゃないかと全身を緊張させたのだ。

(そうだ。戦争は終わったんだった)
でもすぐにそれは違うと理解する。僕の知る戦場ではこんなふかふかの布団で眠れたことはなかったし、第一腰に只今絶賛遠距離恋愛中の男の腕ががっちり巻き付いているのだ。
ということは聞こえた破裂音は、爆発や銃声とかそういった生々しいものじゃなくって、多分――。
中々回らない寝起きの思考を裏付けてくれるように、一発の打ち上げ花火があがり、それに無数の爆竹音と歓声が続く。



(ああ、オーブだっけ)
年越しに上手くザフトから休暇を掠め取った僕は、現在オーブに里帰り中。ま、名ばかりの里帰りだから、ヤマト家やアスハ家での滞在は数時間で、殆どアスランのマンションで過ごしてるんだけどさ。


ここオーブでは新年を迎えた瞬間、祝砲代わりの打ち上げ花火を上げる習慣がある。勿論真夜中のことだから上がるのは二発のみ。それに文句をつけるつもりは更々ない。
だがそれに便乗して若い人たちが、集まってお酒飲んだり爆竹鳴らして騒いだりするのはなんか違う気がするんだけど。




僕はそろそろとアスランを伺った。
大丈夫。安らかな顔で眠ってる。
アスランは今日(年明けを迎えたらしいからもう昨日だけど)も一杯いっぱいまでお仕事してて疲れてるから、せめて僕と居るときくらい彼の眠りを守りたいんだ。

でも年を負うごとに逞しくなっていく腕に抱き締められて、ろくに身動きも取れない僕の耳には、ますます外の喧騒が気になってきた。



「…煩いなぁ。どっか他で騒げってんだ、ばーか」
余りに耳障りで、知らず知らず声に出てしまったらしい。すぐにアスランの肩が小刻みに震え出したのに気付いた。
「アスラン?起きてんの?」
しかも、笑ってるんだ。
「そりゃ俺だって軍人だからな。どうしたってあの手の音には敏感だ。しかもお前、新年一発目にその台詞〜」
彼を笑わせたのは僕の呟きらしかった。
「いや、キラの気持ちは解ってる。俺の眠りを守りたかったんだよな」
そうしてアスランは僕にすら滅多に見せない、最高に綺麗な笑顔で僕をぎゅっと抱き締めた。

「有難う、キラ。明けましておめでとう」
「―――おめでと。今年も宜しくね」
勿論そんな風に抱き締められちゃったら、僕だって一も二もなく応えてしまう。もっとアスランの温もりを受け取りたくて、彼の背中に腕を回した。現金な僕は既に外の騒ぎも気にならかったりして。
と、アスランが元々近かった唇を更に耳元に近付けて囁いた。


「えーと。キラには俺、今すぐ宜しくお願いしたいことがあるんだけど」
「え?」
意味が分からなくて目を丸くした僕に、アスランは今度は悪戯っぽい照れ笑いの後、腰を擦り合わせて来た。


ん?なんか当たるんですけど。




「…――――むっ!」
それが何かを悟って、一気に血が下がった。いや、上がったのか?
「無理!無理無理無理無理!!絶対無理!!」
「え〜。キラは俺の眠りを守ってくれるんだろ?だったらこっちの面倒もみてくれないと。こんなじゃ眠れないの、男なら分かるだろ?」
「いや、僕のせいじゃないから!」
「キラ〜vV」
「いやだ〜っ!!!!」




結局僕は朝までアスランの絶倫に付き合わされて、カガリたちと約束していた初詣も行けなかった。それに責任を感じたらしいアスランが甲斐甲斐しく世話をやいてくれたから、ちょっと腰はダルいけど、ぬくぬくの幸せなお正月を過ごせたんだけどね。
カガリがどうでもいいっていう訳じゃないけど、僕はアスランが傍に居てくれる方が遥かに嬉しいから、年明け早々縁起がいいや。


今年もいい一年の予感。




おしまい
20101231




なんじゃこりゃ。






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