□祈り(完結)
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ふと目が覚めたアスランは、まず自分が何故脈絡もなく目覚めた原因を考え、腕の中に閉じ込めていた筈の柔らかな存在が無かったからだと苦笑した。軍人である以上、眠りは浅いのが当たり前だと分かっているが、数年前まではエマージェンシーに備えての習性だったことに比べれば、そんな自分を嗤ってしまうのも道理にだった。
そうして切り替えると、今度は自然、消えた温もりの行方が気になって早々にベッドを抜け出した。


比較的過ごしやすいオーブであるが、夜はやはり冷える。しっかりと捕まえた恋人がいなくなってしまうかもしれないという懸念は、それこそ数年前までのものでしかなかったが、きっとあの無頓着な恋人のことだ。薄着のままでベッドを出たに違いない。

そう考えて散らばった厚手のガウンを手にして彼の姿を探した自分は、どうやら間違ってなかったと、諦念の溜息と共に眉を寄せた。
すぐに見付けた恋人は、あろうことかベランダに出て、柵に肘をついた掌に顎を乗せるという緊張感のない姿で佇んでいたからだ。おそらくはずっと。
その薄い背中には案の定、上着も何も羽織ってはいなかった。




「―――キラ」
「うひゃっ!」
音もなく――とはいえ窓を開ける音も近付く気配もしたはずだが、後ろからガウンに身体を包み込まれるまで、本当に全くアスランの気配に気付かなかったらしい。心底びっくりして妙な声を上げたキラは、軍に籍を置く人間としてはいかがなものだろうか。
「何してんだ、風邪ひくぞ」
「ひかないよ、風邪なんか。僕はスーパーコーディネーターだよ」
「…………」
それでも身体が冷えていたのは事実らしく、おとなしく細い指は羽織らされたガウンを掻き寄せた。

確かに高いコーディネートを施されたキラやアスランの疾病への罹患率は極めて低い。だが疲労は蓄積しているはずだ。今オーブは忙しい。キラが暫くプラントに帰れないほどには。

しかも深夜のキラのこの行動は、記憶に新しい。
確実に“あの頃”のことを思い出してのものだろう。





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