冒涜

□春の嵐(完結)
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小さなノックの音に応じると、無駄に重厚な木の扉が細く開いた。ノックの主は弟のキラで、退出時にはいつもこうして姉のカガリに一声告げるのが慣例だ。
お互いが官邸詰めである限り繰り返される在り来たりの挨拶ではあるが、今日は少しだけ事情が違っていた。

「じゃ、一週間で戻るから」
その言葉にそういえば休暇届が出ていたな、と思い出した。
「おう、ゆっくり休めよ」
キラは返事もせずに扉を閉じた。コツコツと靴音が遠ざかる。


カガリはらしくない溜息を吐いて、窓の外を眺めた。

「もうそんな季節か…」




◆◆◆◆


この時期、キラは必ず毎年休暇を願い出る。どれだけ忙しかろうが貫かれるとはいえ、他には一切私事を挟まないから、カガリも最優先に聞いてやることにしていた。色々と振り切ってしまったキラだが、疲れないわけではないだろうという配慮もあった。

と、いうのは表向きで、カガリはキラがこの時期、休暇を取る理由を知っているのだ。
どこか幼い風貌に似合わない大人びた微笑に全ての感情を隠し、深いアメジストの瞳は普段から波打つことなく凪いでいる。しかしそんなキラがほんの僅かナーバスになるのがこの時期なのだ。
さりとて周囲に気付かせるほど失態は犯さない。しかし唯一カガリだけにそれが伝わってしまうのは、やはり双子だからだろうか。

(双子って。まだ有効なのかな?)

ふと自嘲した途端、再び扉が開いて、今度は秘書の一人が顔を出した。
「そろそろお支度を。視察の刻限でございます」
別に然したる用意も必要としないカガリは、短く応えると腰をあげたのだった。





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