捧げの桜

□君の隣は譲れない
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「ああ、多分そうだ。なんだ、玄武知っていたのか」

「…知っているも何も…」

玄武の脳裏にあの日の出来事が鮮明に浮かび上がってくる。
あれは忘れ難い出来事だ。
何しろ自分はあの日、被害を被ったのだから。
そう、あの日は風が屋根が吹き飛んでしまうのではないかと思う程強く、玄武は様子を伺うために屋根に上がり、風に含まれた同胞、太陰の神気を感じた。
先に屋根にいた朱雀と天一と共に様子を伺っていたのだが、太陰が異形を倒すために放った風の巻き添いをくらい…玄武は安部庭の池まで吹っ飛ばされ全身ずぶ濡れになったのだ。
それからというもの、玄武は太陰が謝るまではずっと不機嫌だったのだった。

「どうした、玄武?」


突然黙り込み、不機嫌な顔をしている玄武を不審に思い百虎が尋ねる。

「…いや、別に」


(…なるほどね)

玄武の様子を暫く観察し、彼の表情の理由に合点がいった勾陣は胸中で納得した。
確か玄武が今のように不機嫌な顔をしている日があった。
そう、今日のように風が強かった、太陰たちが巽二郎に会ったあの日。
玄武が不機嫌な顔をしているので不審に思った勾陣は天一に理由を聞いたのだった。
否、玄武に直接尋ねなかった理由は声をかけずらい雰囲気を本人が醸し出していたから。あれは玄武が怒るのも無理はないだろう。
…例え太陰には悪気がないとしても。
しかし、毎回太陰の風の巻き添いを喰らっている玄武を哀れに思いながらも、こうも巻き込まれる彼を本人には悪いがもう約束されている展開なのでは、と思ってしまう。
「…で、何故その大陸の神仙は太陰に用があるのだ?」

「それは…」

勾陣が玄武の問いに答えるべく、口を開こうとしたその刹那、凄まじい突風が吹き抜けた。太陰が帰って来たのだ。
そして、もう一つ気配を感じる。恐らく大陸の神仙だろう。

「帰って来たようだな。」

百虎が屋根の上に視線を移す。

「ああ、そうみたいだね。」


百虎と同じように視線を屋根に向けていた勾陣は振り返り、玄武に視線を移す。

「話の続きだ。大陸の神仙…巽二郎は太陰に惚れているようだ。」

「…惚れ…?」

思わず玄武は目を見開いた。
「多分ね。今日は何か用があってたまたまこの近くに来たらしいが、そのついでにこちらに寄ったようだよ。
せっかく来たのだから太陰の顔でも見て行こうと思ったのではないかね」
「…!」
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