捧げの桜
□君の隣は譲れない
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ドクンと心臓が跳ねた。
「…百虎、勾陣。事の経緯がわかった。礼を言う」
そう言うと玄武は隠形し、気配を消した。
「玄武はどうしたんだ?」
百虎が玄武のいた場所に視線を移しながら怪訝そうに尋ねる。
「…禁句を口にしてしまったかもしれないな。
一嵐来るかもしれない。」
「 ? 禁句?」
相変わらず怪訝そうに首を傾げる百虎に苦笑しつつ、勾陣は溜め息をつき胸中で呟いた。
(…太陰も大変だな)
―※―※―※―※―※―
「…」
―…何故だ。先程から何故か、胸の中が霧がかかったかのようにもやもやする。
勾陣たちの元を離れた後、清明の部屋へと向かっていた玄武はその足取りはしっかりとしているが、今の彼は別の事で頭の中がいっぱいだった。なので、彼にしては珍しく傍から見てもわかる程不機嫌な様子で歩いていた。
玄武はふと立ち止まり、天井を仰いだ。
(この屋根の上に太陰と…神仙が…)
そこまで考えて玄武はふるふると首を横に振って、視線を前に移した。
(何故そんなことを考える?別に太陰が誰とどこにいようが我には関係ないではないか。)
―そう、関係など…
その刹那、耳に先程の勾陣の言葉がこだました。
『巽二郎は太陰に惚れているようだ』
「……っ」
―ドクンッ…まただ。
先程から太陰と大陸の神仙のことを考える度、鼓動が大きくなる。
(これは…焦燥?)
何故?自分は何に対して焦っている?
何に…
―ビュウッ…
「!?」
突如、風が吹いた。
しかし、先程のように家々の屋根を吹き飛ばすような威力ではない風。
けれど自然の力による風でもない。これは…
「あら?玄武じゃない。」
甲高い声に己の名を呼ばれ、顔を上げればそこには栗色の髪と衣を翻しながらこちらに降り立つ同胞の姿。
「たっ…太陰!?」
「なんでそんなに驚くのよ?」
怪訝そうに首を傾げ、大きな桔梗色の瞳でこちらを見つめている。
「あ…いや、何でもない」
何故だか落ち着かない。思わず目を逸らしてしまう。彼女の目を見れない。
「ふーん?玄武、ここでなにしてたの?」
「清明の部屋に行こうとしていただけだ。」
「そう。清明なら今、昌浩と騰蛇と彰子姫と市に行く支度してるから用があるなら後でにした方がいいわよ。
急ぎの用なら別だけど」
「そうか。別にそれと言った用はないから構わない。ところでお前は何をしていたのだ?」