捧げの桜

□潮風と貝殻
1ページ/9ページ

目の前には青空が広がり、キラキラと光る砂浜、そして壮大な青い海。


「わぁー!綺麗〜!」

少女は瞳を輝かせて、感嘆の声を挙げた。
そして、少女はくるっと後ろを振り向いて、自分の後を、遅れながらついてくる人影に声をかけた。


「玄武!なにをぐずぐずしてるのよ!早く来なさいよ!」


声をかけられた玄武は、それには答えず、代わりに物言いたげな視線を彼女に向けた。
いや、答えられない状況だった。


「はぁ…はぁ…。」


それもそのはず。彼はその小柄な体に、似合わないほどの荷物を両手に持っていた。

「…誰のせいだ…誰のっ!この…状況を見て…はぁ…物を言え…っ。」

玄武は、肩で息をしながらやっとのことで太陰に答えた。


「ああ!ごめん!」


状況に気付いた太陰は玄武の元に慌てて駆け寄る。海に着くまでは太陰も荷物を持っていたのだが、海を目にした途端、つい興奮して、荷物を放って駆け出していた。そして、自然に玄武が持たされている状態だ。

「ごめんごめん!つい走りたくなっちゃって。」


太陰は、苦笑しながら玄武に謝る。


「全く…はしゃぐのは構わんが、自分のことに責任を持て。」
「わかってるわよ。
ごめんってば!ほら、早く歩きましょ!」

溜め息をつきながら、注意する玄武を促して、太陰は玄武の手から荷物を受け取り、隣に並んで歩く。

二人がなぜ海に来ているのかと言うと、話は2日前に遡る。


夏休みに入って、二人は暇を持て余していた。皆でどこかへ行こうかという話も出ていたのだが、夏休みだというのに、皆予定が合わなかったのだ。

「せっかくの夏休みなのに、皆予定が合わないなんて…。つまらないわ。」


「うむ…。確かに…。」


肩を落とす太陰の言葉に玄武も同意した。
彼女の言う通り、皆で出かける話が出ていたのだが、皆何かしら予定があったので、中止になってしまった。
8月の半ば頃には、皆特に予定はないので、旅行にでも…というのは確定しているが、今は7月。夏休みに入ったばかりなので、それは大分遠いものに感じる。

「8月の半ばには、「旅行」と確定しているが…。」

「だからって、今はまだ7月なのよ?後半って言ったって、何週間かはあるんだもの。まだまだ先の話じゃない。」

玄武の言葉に太陰は唇を尖らせて言った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ