捧げの桜

□少しずつ
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「…この本かしら?」

天后は棚に手を伸ばして、背表紙を確認する。
彼女は今、本屋に居る。もちろん、本を買うためであるが、彼女の本ではない。
晴明に本を頼まれたのだった。



―1時間程前―


「昌浩や、おーい!」

自室の書庫にこもっていた晴明は、孫の名を呼んだ。


「おーい、昌浩。…おや、居らんのかのう?」

名前を呼ぶが、孫からの返事はない。


「…頼みたい事があったんじゃがのう…。」

晴明が、諦めたようと肩を落としていた時、

―コンコンッ


自室のドアをノックする音がした。


「誰じゃ?」


晴明が問いかけると、落ち着きのある声が返って来た。


「晴明様。私です。」

「おお、天后か。入っておいで。」


ドア越しの声の主に、すぐに思い当たった晴明は陽気な声で答えた。


「失礼します。」


「天后、どうした?
何かあったのか?」


ドアを開けて、部屋に入って来た天后に晴明は問いかける。


「いえ。特になにもありません。」


「そうか。なら、何か用か?」


「いえ…用と言うか…晴明様が先程昌浩を呼んでいらしたので…。」


天后は少し困惑気味に答えた。


「ん?あぁ、昌浩にちょっと頼みたい事があってな。」


「昌浩は今、騰蛇と共に出かけています。」

「そうみたいじゃな。だから、今度で良いと思ってな。」


「…その頼み事とは一体どういったものですか?」


首を傾げて天后が尋ねる。


「いや、大した事ではないんだよ。ただ、新しい本が欲しかったのじゃ。ここにある本は、ほとんど読んでしまったからのう。」

晴明は、本棚をぐるりと見渡して言った。
大きな本棚にはたくさんの本が収まっている。部屋の半分が、本棚と言っても良いくらいの本が収まっているのだ。


「自分で買いに行こうと思ったんじゃが…あいにく、今日は出かけなくてはならないのじゃ。」


「…本が欲しいのですね?それなら、私が行きます。」


その一言で、彼女は本屋に行くことになった。晴明からは、「別に焦る必要はないから、今日でなくてもいい」と言われたのだが、彼女はちょうど暇を持て余していたので、自分から「行きたい」と申し出た。


「…これと、あともう一つは天文学関係の本…。」


晴明から頼まれた本は、植物関係の本と、天文学関係の本。
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