捧げの桜

□共にいる理由
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…―何故、自分は常に彼女と共にいるのか。
それは彼女が自分を必要とするから、それだけだ。
それ以外の理由など、考えたこともなかった―…。


「ねえ、玄武。
玄武はなんでいつも太陰と一緒に居るの?」

ふと思いついたかのようにそれまで熱心に陰陽寮の書写をしていた昌浩が唐突に手を止めて尋ねて来た。
一方、尋ねられた玄武はというと、人界に下りて来たは良いが、特にすることもないのでたまたま通りかかった昌浩の部屋で、昌浩の勉学の様子を見ていたのだ。

「…は?」

突然の質問に思わず間の抜けた声が出る。
何を突然、とでも言いたげな眼差しで玄武は昌浩を見た。
その視線を予想していたかのように昌浩は微笑を浮かべ、動かしていた手を完全に止めて玄武と向かい合う形に座り直す。
「いや、今までずっと気になってたんだよね。
玄武とこうやって二人で居ることってあんまりなかったからいい機会だと思って」

いつも昌浩の傍らにいる騰蛇こと物の怪は今、席を外している。
色々な諸事情により、長いこと陰陽寮に出仕していなかった昌浩は陰陽生の中で随分と遅れをとってしまった。
その遅れを少しでも取り戻すために彼は自分の部屋におり、そして物の怪は彰子の部屋に居る。
最初は物の怪も昌浩の傍に居たのだが、物の怪はよく喋るので昌浩はとても集中出来ない状態だった。
そこで、「外はいい天気だから散歩でもして来たらどうだ」と提案した所、物の怪も退屈していたらしく、素直に部屋を出て行ったところを、玄武が通りかかり、居座ることになったのだった。

「…雑談などしていて良いのか?」


「大丈夫だよ。今は休憩時間だから。
ねえ玄武、なんで?」

興味津々と言った様子で尋ねて来る昌浩に、玄武は半目になる。

「…それは我が太陰に振り回されているからだろう」

そう、いつも自分は彼女に振り回されている。
十二神将が誕生してからおそらくずっと…。

「うーん…確かにね。
それはあるかも…」

玄武の答えに昌浩が苦笑する。確かに、太陰が振り回しているというのはあるだろう。
それは傍から見ても窺える。
けれど、それだけなのだろうか。
うーんと考えるそぶりを見せ、少し間を置いてから昌浩は口を開いた。

「…でもさ、玄武も太陰と居たいから一緒に行動してるんじゃないの?」
その言葉に玄武が瞠目する。
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