月夜語り

□天の華、星の祈り
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「ねえ、玄武!
次はヨーヨー釣りやりたいわ!」

「太陰、わかったから引っ張らないでくれ」
興奮気味に腕をぐいぐいと引っ張られて、人混みを掻き分けて歩く。
夜だというのに子供から大人まで人々が行き来し、耳には力強い太鼓や涼やかな笛の音が響き、見上げれば頭上に吊されている提灯が明るく闇を照らしている。
今日、玄武と太陰は近所にある神社の祭に訪れている。
夕方、玄武が部屋で大人しく夏休みの宿題である読書感想文のために読書をしていた所、突然太陰が部屋に転がり込むように入って来て祭に行こうと誘って来たのだ。
突然のことにうろたえる玄武を、太陰が有無を言わさず部屋から連れ出して今に至る。
太陰に腕を引かれながら歩いていると、華やかな浴衣に身を包んだ少女や女性達とすれ違う。
そんな玄武も黒地に白と灰色の縦縞の入った浴衣を身に纏っている。
玄武は自分の纏う浴衣に視線を落とし、数時間前の出来事を思い出して顔をしかめた。
太陰に無理矢理自室から連れ出され、混乱したままの玄武は一階に連れて来られた。…と思ったら、リビングの隣に位置する和室に連れて行かれ…そこには、浴衣と紺色の帯を両手に持った六合が待ち構えていたのだった。
ジリジリと近づいてくる六合に恐怖を感じ、後ずさる玄武を太陰は無情にも背後から六合へ向けて突き飛ばし、笑顔で六合によろしくなどと告げてその場から去っていった。
それでも逃げようとすると今度は騰蛇が現れて捕まり、抵抗する玄武をものともせずに六合が素早く衣服を剥いで浴衣を着付けていったのだった。
きっちりと着付けられた後、満足そうな六合や感嘆する騰蛇に反し、状況に頭がついて行かない玄武は放心状態になっていた。
それからすぐに、浴衣に身を包んだ太陰が現れた。彼女も玄武が着付けられている最中に自宅に戻って着付けてもらっていたらしい。
太陰は六合達に礼を言い、再び放心状態の玄武の腕を掴んで拉致していった…という慌ただしい経緯が祭に来るまでにあったのだった。
神社に向かう途中、やっと我に返った玄武が太陰に抗議し、口論になったりもしたが結局玄武が折れて現在に落ち着いている。
玄武は祭に来るまでの一連を思い出し、遠い目をした。

(まったく…いつものことではあるが…)

もう慣れてしまって腹が立つのは最初だけで、後はもう投げやりに感じる。もうどうにでもなれ、と思ってしまう。
はあ、と溜め息を吐くと前を歩いていた太陰が振り返る。
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