月夜語り
□それは、雨音すらも掻き消して
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「あーあ…雨なんていやねぇ」
縁側に腰をかけて空を見上げると、広がる曇天からは止めどなく雨粒が降り注いでいる。
朝から降りつづく雨は見ているだけでうっとうしい。
じめじめした空気が肌に纏わりつくのも気分が悪い。
そんな雨は昨日から止む気配を見せない。
もうすぐ、人間界は入梅する時期。
つまり、この雨はこれからずっと降り続く。
まあ、わたしたち神将は、濡れても人間みたいに風邪を引いたりなんてしないし、洗濯物を干せないとか、足場が悪いからどうのなんて影響はないんだけど。
それでも、やっぱり晴れてる方がいい。
「止んでほしいわ…」
「そんなに止んでほしいのか?」
突然傍で聞こえた声に驚いて、肩が震えた。今、晴明も昌浩も自分の部屋にいるし、神将の皆もそれぞれ好きに過ごしていて、私は一人でここにいたから。
振り返ると、玄武がいつの間にか背後に立っていた。
「玄武!異界にいたはずじゃ…」
「こちらへ来たのはつい先程だ。
お前の元へ来たのは今」
気づかなかった…神将として、ちょっと不味いかしら。ううん、妖なら禍々しい妖気ですぐにわかる。同じ神将で、馴れ親しんだ玄武の神気だからつい油断してただけ…そう思うことにしよう。
そんなわたしの動揺を見抜いたのか、まさか気づかなかったのか、と言いたげな視線を向けられて罰が悪くて視線を逸らす。
「…なによ、一緒に来るように誘っても来なかったじゃない」
こっちに降りて来るとき、退屈だから一緒に人間界に行こうって誘ったのに、玄武は断った。だからわたしは仕方なく一人で人間界に降りた。降りてみたら天候は雨で、結局こっちでも暇をもて余していたのに。
今さら来るなんて遅いのよ。