月夜語り
□秋の月
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木の葉が風でひらひらと散ってゆく。
山々は黄金色や紅に染まり、鮮やかで美しい。
貴船山にも秋が訪れていた。
静寂に包まれているはずの貴船山に何故か子供の声がこだましていた。
「玄武!早く来なさいよ!綺麗よ!」
「太陰、風をそのように乱暴に操るな!
気持ちはわかるが、お前の風でせっかくの美しい紅葉が散ってしまうではないか!」
「大丈夫よ!ちゃんとこれでもいつもより加減してるんだから!」
風を纏い、木々の間を駆けていた太陰が玄武に振り返る。
「はぁ…はぁ…本当に加減…しているのか?
我には…いつもと変わらないよう…に思えるのだが…」
肩で息をしながら玄武が言葉を発する。
何故、彼が肩で息をしているのかというと、答えは簡単。風を纏い、どんどん先を行く太陰の後を追いかけていたからである。
神足を使っているので息切れなどはしないはずだが太陰が木々を薙ぎ倒さないかという心配も伴い、焦っているのだ。
「失礼ね!これのどこが加減してないって言うのよ。周りに被害は全く出てないわ!
その証拠に木の葉も少ししか落ちてないじゃない」
太陰の言う通り辺りを見回すと確かにそれほど葉は散っていない。
本当に加減していたらしいが、それでも彼女の纏っていた風はゴウゴウと唸り声を挙げていたので、玄武には普段と変わらないように思えたのだった。
「…確かに今回は加減しているみたいだな」
「当たり前じゃない。
何のためにここに来たと思ってるのよ」
「そうだな…紅葉を見に来たというにその紅葉を散らしては意味がないからな」
二人は貴船山に紅葉狩りに来ているのだ。
安部廷の庭も大分紅く色づいているが、二人は紅葉を見るのは貴船山と決めている。