第4取調室

□相談
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君の事を思って
あれこれと思案する

そんな時間が
とても幸せだと
思ったりするんだ



「ねえねえねえねえ、柊二さん柊二さんっ!!」
膝を抱えてうとうとと眠っていると。
黒に身体を揺さぶられた。
「……何……?」
柊二さん、などと黒に呼ばれるのは初めてではないだろうか。
不気味さに耐えて薄く目を開け、秋葉はそこに黒がにこにこと笑って両膝をついている姿を見る。
「明日、明日」
「は………?」
明日。
と、いきなり言われても。
秋葉は意地悪く、とぼけた振りをしてみる。
予想通り黒は、ぷう、と頬を膨らませた。
「意地悪!!分かってるクセに!!」
「……意地悪ですよ?」
今日は8月2日。
という事は、明日は全国的に8月3日な訳だ。
8月3日、という日は。
自分達にとって、特別な日だ。
「俺、プレゼント買いに行きたいんだけど!!」
黒は、両手で大切そうに貯金箱を持っている。
いつの間にか自分で、100円ショップか何処かで買ってきたのだろう。
何処で知恵をつけたのか、6月に入る頃に人格交代時の賃金アップを訴え始めた辺りから、黒は少しずつお金を貯めていた。
それは何となく知っていたのだが。
その箱の中にどれくらいの金額が入れられているのか、秋葉は知らない。
「何買おうと思ってるの?……予算は?」
この場所で黒と話す時は、2人は身体を寄せ合って手を繋ぐ。
それが暗黙のルールになりつつあった。
いつものように秋葉が黒の側に座りなおすと、黒は嬉しそうに笑って片手を秋葉の左手に触れさせる。
右側に秋葉、左側に黒、という位置もルールのひとつだ。
「んとね、これと、この前柊二からもらったお金合わせて、2万円くらいあると思うの」
「…………」
じゃらじゃらと箱を片手で振り、黒は呟く。
それを聞いた秋葉の正直な感想は、よく貯めたな、というものだった。
「でね、あのね。柊二さん」
「言いたい事は何となく分かったけど。お前、意外と回りくどい……?」
くすくすと笑いあい、秋葉と黒は顔を寄せる。
「かじわらの誕生日、俺、初めてだから……あげたいものは決まったんだけど…」
「……梶原が喜んでくれるか、心配?」
語尾が不安げに揺れた黒に、秋葉が問う。
こくり、と頷いて、黒は秋葉の腕に寄りかかった。
大切な人の為に、プレゼントを用意するのは少し緊張する。
そんな行動をした事がない黒にとっては尚更だ。
不安に思っても仕方がない。
「大丈夫だよ。梶原は喜んでくれるよ」
そっと黒の頭を撫で、秋葉は笑う。
後で黒の財布の中に、足りない分のお金を入れておいてあげよう。
そう思いながら。

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