東京拘置所

□美貌の青空〜過保護〜
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年明け、子猫が熱を出した。
風邪だった。
元からあまり頑丈ではない上に、無理矢理に身体を売ることを強要されていた子猫は、大和や俺が思っているよりも弱いのかも知れない。
「あのなあ。大丈夫だから。死にやしないよう」
濡らした手拭いをひらひらと振り、俺はそれを畳んだ。
全く、大和といい梶原といい。
子猫のことになると過保護すぎて困る。
昨夜から梶原は子猫につきっきりだし、大和だって俺には絶対見せないような不安げな表情をして仕事にでかけた。
全く、あの大和の表情は腹立たしい。
そういう俺もまあ、子猫の事になると過保護になるのは同じだから、2人の事など言えた立場ではないのだが。
くたりとしたままの子猫の額に手拭いを乗せてやると、僅かばかり表情が和らぐ。
「……柊さん」
梶原が小さく子猫を呼んだ。
子猫はうっすらと目を開ける。
しかしその目は開いても、恐らくほとんど周囲のことは見えていないだろう。
「熱が上がりきりゃあ、あとは下がるからな?もうちょっとしたら楽になるからよ」
がんばりな、と頭を撫でてやると、子猫は頷いて笑った。
「ほら、仕事に行きな。柊には俺がついててやるからよう。仕事に穴あけたら恐いぜ、向島の姐さんは」
「はい」
元々は俺が梶原に紹介した仕事だが、梶原は腕の良さと人の好さで気難しい向島の姐さんにも大事にされている。
梶原を送り出し、俺は再び子猫の部屋に行く。
「ごめんなさい、遼さん…」
「馬鹿。変に気ぃ使うんじゃないよ」
子猫は聡い。
その聡さはどちらかといえばいとおしい部類に入る。
「早く元気になりな」
子猫はやはり、少し笑った。

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