捜査共助課4(短編小説)

□3月の雪
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雪の日は、思わぬ事故が多発する。
地域課も交通課も大騒ぎだ。
運転のプロ集団とはいえ、やはり彼らもたまにしかない機会では慣れる程でもなく。
従って、署内も慌しい。
「返せよ、俺の休日〜!!」
影平が叫ぶ。
叫んでみても仕方ないだろうに、と秋葉は苦笑する。
元々今日は非番であり休日ではないのだが、影平にはそんな事は関係ない。
非常招集がかけられたのは、早朝だった。
このまま数センチでも積雪があれば、人員が足りなくなるからだ。
「寒いし〜、仕事したくないし〜。てか風邪気味だし。秋葉、何かあったらお願いね」
今日はストーブ番、とばかりに影平はストーブの側を動かない。
秋葉はそれには答えずに窓の外を見た。
3月の雪。
季節はずれと言ってもいいかも知れない。
「……大丈夫ですか?」
梶原が声をかけてくる。
ふと我に返り、秋葉は目をそちらに向けた。
「……?」
怪訝そうな表情を見せた秋葉に、梶原はにこりと笑う。
「肩の傷。寒いと痛むんじゃないですか」
とんとん、と自分の右手の指先で、梶原は自分の左肩を軽く叩く。
「いや…」
そう答え、梶原には全て見透かされているだろう、と秋葉は思う。
気をつけてはいるのだが、天候や気圧には勝てない事がほとんどだ。
「貼るホッカイロとかありますけど」
「あ!!俺にくれ!!それ梶原俺にくれ!!たくさんくれ!!」
目ざとく、ではなく地獄耳だろうか、影平がホッカイロという言葉に反応した。
「あげてもいいですけど、これ使うなら現場出てくださいね?」
「…じゃ、いらない」
梶原も最近影平には負けなくなった。
ぷい、と顔を背ける影平だが、いつでも現場に出られるように準備だけはしている。
「黙って仕事してればいい男なのに〜」
影平の隣にいた優が呟いた。
「俺が黙ったら陰気臭いぞ?この部屋。ネクラな秋葉がいるからな」
誰が根暗だ、と思ったが、反論するのも疲れるので秋葉はいつもの様に黙っておく。
「大丈夫ですか?温めなくても」
「うん…一応自分でも気をつけてるから。ありがとう」
仕事で組む事がなくなって、随分経つ。
だが相変わらず梶原は秋葉の隣の席にいて、相変わらず秋葉を気遣う。
根が優しいのだろうな、と思う。
根暗な自分とは違って…と思いかけて、秋葉は思わず笑いそうになった。
「雪止まないかなあ…」
梶原が呟く。
大きなぼたん雪が舞い落ちてきていた。
「早く春になればいいのにな」
誰かの呟きも聞こえる。
早く春になればいい。
大半の同僚はそう思っているに違いない。
その中でひとり。
秋葉は。
このまま3月の雪が降り積もればいい、と心のどこかで思っていた。
そんな自分は、影平に言わせればやはり根暗なのだろう、と思いつつ。
また今年も4月が近付いてくる。
その微かな恐れを、たとえ今だけでも淡く溶けていく雪に覆い隠して欲しかった。
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