捜査共助課4(短編小説)

□やがてくる春を思う
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そろそろ冬物のコートも要らなくなるだろうか。
そんな事を思った翌日には、風が強くて気温が下がる。
まだ少し、春は遠くにいるのだろうか。
遠ければ遠いほど、いいのだけれど。
職場では花粉症で調子を崩している同僚が複数、風邪でダウンしている同僚がひとり。
まあ、そのひとりは影平だが。
おかげで今日は静かな1日を過ごす事が出来そうだ。
たまたま出張で陣野が留守だったので、パートナーがいない者同士、梶原と仕事をする事になったのも良かったのかも知れない。
「………良かった……?」
自分の思考を巻き戻してみて、素のままで頭に思い浮かんだその言葉に引っかかる。
「どうしたんです?秋葉さん」
小さな呟きを聞き、隣にいた梶原が首を傾げながら秋葉を覗き込んだ。
「何でもない」
影平に伺いをたてなければならない書類についてのメールを作成しつつ、あまりに愛想のないその文面に、パソコンのキーを打っていた指を止める。
電話にすれば話は早いが、高熱を出しているという事なのでメールにしてみたのだが。
返信は今日の16時頃までにもらえればいい。
もしも返信が来なければその時に電話をすればいい、という程度のものだ。
「影平さん宛てですか?珍しいですよね、影平さんが熱出して休むなんて。ちょっと心配」
「ああ……うん…」
秋葉が眺めている画面を見ながら、梶原が心配げに言う。
そういえば、昨日から具合は悪そうだった。
いつもなら、『喰らえ俺の風邪菌』とでもいいながらわざわざ咳き込むくらいの所業は当たり前だったのに。
昨日の影平は、きちんとマスクもしていたし覆面車の換気も自分からこまめにした。
秋葉に手洗いとうがいをするように何度も言ったりもした。
「……ちょっと心配になってきた」
メールの最後に打った、以上、の文字を消し、秋葉は再びキーの上に指を乗せる。
結局そっけない文面には違いなさそうだが、一応見舞いの言葉を入れ、送信する。
「秋葉さんにうつってないかって方が心配ですけどね、俺は」
さらり、と梶原がそんな事を言った。
「じゃ、行きましょうか」
梶原が捜査用のファイルとその他の持ち物をバッグに詰め込む。
午前中、まずひとつめの仕事は聞きこみだった。
本来陣野と梶原が担当する地域だ。
「俺、運転しますね」
当たり前のように梶原が言い、覆面車の鍵を取る。
秋葉は一階の駐車場へ向かいながら、もう一度行き先の確認をするために手帳を取り出した。
秋葉は足を止める。
覚えのある、住所だった。
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