捜査共助課4(短編小説)

□3月の雪
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「ただいま帰りました」
現場に出ていた薬師神が戻ってきた。
寒い外から暖かいフロアへ入ると、ほっとした表情を浮かべている。
「お疲れお疲れ」
ストーブ番をしていた影平が労うと、ふう、と薬師神は溜息を吐いた。
「で。俺が寒い寒い現場から帰ってきたのに、お前はどうしてストーブ前から動かないのかな」
「今日の俺は、ストーブ番するためにここに来たんだもん」
火のついたストーブを抱えんばかりの体勢で、影平はわざとらしく頷く。
秋葉は不在の梶原の代わりに、薬師神に温かいコーヒーを淹れに席を立った。
「優しいなあ、秋葉は。誰かさんと違って」
じわじわと影平とストーブに近付きながら、薬師神が呟く。
「あいつお前には優しいよね。俺にはあんな事しないよね、絶対」
若干拗ねた口調の影平に苦笑しながら、秋葉は薬師神のマグカップにインスタントコーヒーを入れて湯を注いだ。
「お前、秋葉に嫌がらせばっかするから。後は人徳の差だよね」
「ふんふーんだ」。
秋葉がそのやり取りに苦笑しながら、薬師神のデスクにマグカップをそっと置く。
薬師神は秋葉と目を合わせ、肩をすくめて見せた。
子供でもあるまいに、と言いたげだ。
「外、寒かったなあ…」
手袋を外して、再びの溜息。
影平は知らん顔だ。
「寒かったんだ、よ、なあ」
「うぎゃあああああああああああ!!!!!」
薬師神の、氷のように冷たい右手が影平の首筋にぴたりと当てられた。
影平は悲鳴を上げて身体を捩ったが、薬師神はぐいと彼の首を掴んだ。
「ああ、暖かい暖かい」
「離せっ!!バカ!!何すんだ、ボケ!!!」
暴れまわる影平を、軽く押さえ込んで薬師神はにこりと笑う。
「こらこら、そんな言葉を口にするんじゃない。言霊って知ってるか?」
「知ってる!!知ってるから離せ!!秋葉!!てめえ助けろアホ!!」
途端、薬師神がするりと影平の背中に手のひらを入れる。
「うぎゃああああああああああああ!!!!!」
「何度言っても覚えが悪いねえ、お前は…」
そのやりとりを見つめ、何だかんだと結局この2人は仲がいいのだと思いつつ。
薬師神には逆らうまい、と思う秋葉だった。
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