【掌編】

□【掌編】十六話
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「何のために、僕をこんな――スパイみたいに、月吉の家に送りこんだんだ? 何か意図があるなら、早めに教えてほしいんだけど?」

『ふふん、だぁいじょうぶ。心配しなくても、おれはいつもどりさ』

 でも、今回は相手が『いつもどおり』じゃないんだよ、あくあ。
 ちゃんと、それをわかってるの……。

『おれはね、そんなだいそれたことを考えちゃいないさ。些細な、ちいさな夢のためにのみ行動している。おれはいつまで生きられるかわからない、だからせめてこの胸が鼓動を繰りかえしている間は、心地よい世界で暮らしたい――ただ、それだけだよ』

「そのために、〈秘密結社〉が必要ってこと? 〈秘密結社〉が、あくあの居場所になるってこと?」

『それもいいね。でも、そのときは君もつれてくよ。一緒にね、死ぬまで。だからそんな心配そうな声をださなくてもいいんだよ、だいじょうぶ――愛してるから』

 その言葉が、何だか胸に虚ろに響く。
 あくあが何を考えているのか、いつもわからないけど――今日ばかりは、それが何だか不安だった。

『君はそのまま、現状維持でいい。流れるところまで流されるといいよ、きっと見たことない景色が見れるから。それを、君は僕に教えてくれ。僕の数少ない楽しみなんだ、君と話すのはさ』

 電話の向こうのあくあが、何だかとっても遠かった。

『じゃあ、続報を期待してるよ――おやすみ、文花』

 久しぶりに名前を呼ばれたのに、やっぱり僕の心は不穏に乱れたまま。
 電話が切れた。

 何だか寒気を感じて、僕は携帯電話を握りしめたまま、ぶるりと震える。

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