動乱の氷華

□艶
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「強いね」

「それなりに」

「まあ…宜しく」


照れたような優しい表情をうかべる沖田様。

その笑顔に不安を覚えた。


「沖田様」

「なに?」

「私に、情を入れないで下さい」

「……は?」


4話.艶



井戸で手を洗っていた澪は、手拭いで水を拭き取りながら沖田に向き直った。


「私は貴方の盾、全ては貴方を守るためにある…
どうか、私を人と思わないで下さい」


あなたが私を、躊躇いなく使えるために。
貴方を守るために。



沖田は言葉に詰まった。


なんだこの子…

いや、なんて自信過剰なんだじゃなくて。


目が…

光を失った、酷く無に近い色。


好きにならないでとかなら…
まぁ分かる。

ならないけど。


人と思わないで…?

聞いたことないよ、そんなお願い。



血まみれで僕の前に現れた彼女。

視線を滑らせ、左手にある痛々しい無数の刀傷に目をやった。


彼女も気付いたらしく、視線を向けてから、右手で隠した。


「すみません、お見苦しいものを…」


「誰がやったの?」

「自分です。」

「…嘘だ」

「本当です、自分でやりました。」


柔らかく微笑んで、ペコリと頭を下げてから彼女は僕の横を通り過ぎていく。


月明かりに照らされているはずの長い黒髪は、暗い景色に沈んで見えた。




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