月誠の理

□桜まねき
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ドンッ ガッ バーーッン‼︎


穏やかな春の日に響くその音は、いつもより酷く穏やかに感じた。


僕は小さく息を吸い、吐いた。


下段に構えた竹刀を床と平行に持ち上げ、手首をひねる。


ダンッ ダンッ ダンッ


はっはっと荒い呼吸をし、体から力を抜いた。


春一番の風は生温いが、まだ少し残る涼しさが心地いい。


熱気でボーッとしてる僕の前で、尻餅ついたその人は防具をぬいだ。


「すごいぞ!宗次郎!三段付き、完成したんだな。」


その強面からは想像できない笑窪が浮かんで、僕も笑みがこぼれた。


「まだまだです!近藤さんに、二回も止められましたっ!」


拗ねた子のように頬を膨らませば、立ち上がった近藤さんはでかい声で笑った。


「だが、よくがんばったな。宗次郎。」


優しい大きな手に撫でられて、照れ笑いをした。


「そうだ!宗次郎。」

「はい?」


ニコッと嬉しそうに笑った近藤さん。

なんだかよく分からないけど、近藤さんが嬉しいならいいや。


「今日は、この後で話したいことがあるんだ。井戸で汗を流したら、俺の部屋まできてくれるか?」


「わかりました!」


善は急げ!

…善なのかな?

まあ、近藤さんが笑ってたからいっか!


たっと縁側を駆け下りて、桜が舞う庭に飛び降りた。

地面に花びらが散っていて、とても綺麗だ。


桜の気の下に位置した井戸の桶の中には、この時期に花びらでいっぱい。


…なのに。


「あれ?空っぽだ。」


綺麗にそこの見えた桶に首を傾げ、水をくみ顔を洗った。


「ぷはっ」

さっぱりしたー。

と思ってふと桜の気を見たら、翠
色がちらりと端に見えた。


この時期に葉桜?

不思議に思って覗いて、僕は固まった。


栗色の髪を綺麗に結って、白い花と桜の花びらの装飾の翠色の着物。


春の終わり、葉桜のみたいだ。


心なしかその場所だけ多く舞う桜を、じっと見ているのは、知らない女子。


お客さん…?


声をかけようとして、やっぱりやめた。

これさ…僕だけが見えてる、幻とかじゃないよね?


だってこんなに、こんなにも、


綺麗なのに……。
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