隙ありっ Short Stories

□隙ありっ 番外編
12ページ/16ページ



  さてさてお手並み拝見

  探偵連載番外編。
  本編P.17のおまけにて話していた件について。



『わー…日本に射撃場なんて無いと思ってた…』

「以外と日本にもあるものだよ。ライフルを撃てる所は限られてるみたいだけど」



 そう言いながら受け取ったライフルを持ち上げ慣れた様に弾を装填する。
 その様子にインストラクターは「経験者の方ですか?」と少し驚いた様に言った。
 それはそうだ、銃を持ったのは眼鏡を掛けた大学生と銃とは無縁に見える様な女性なのだから。
 神崎遥と沖矢昴として射撃場を訪れていた2人はその言葉に顔を見合わせ笑い合う。



「ええ。2人共趣味が射撃で。」

『今日はあたしが拳銃しかやった事が無いから彼にライフルを教えてもらうんです』

「ほー…大学生なのに大したものですなぁ…」



 離れて行ったインストラクターから目を逸らして沖矢がライフルを慣れた様に扱う黒凪に向かって口を開いた。
 扱いには慣れている様だけど、撃った事は本当に無いのかい?
 沖矢の口調で言った彼に「うん」と黒凪も遥の口調で言った。



『ライフルの準備もよくしたからね。昔あんたのも入れたげた事あるよ?』

「そうなんですか?それは知らなかった。」

『撃つのが仕事の人達のサポート役だったからねえ。あたしは。』



 で、どうやって撃つの?
 そう言って構えた黒凪に「違う違う」と自分のライフルを置いて沖矢が黒凪の両手に手を添えた。
 此処の指はそっちで、目線は此処。
 そう言ってテキパキと指示を出していく沖矢に黒凪が小さく笑った。



『"仕事場"でもこうやって後輩に教えてたわけ?』

「ええまあ。コツなんて言ってしまえば沢山あるので。」

『ふーん。』



 はい、この体勢のままで的を狙って撃ってください。
 そう言った沖矢に目を見開いて的を見る。
 やがて引き金を引いた黒凪はライフルから目を離して的を見た。
 初心者用の距離だとど真ん中。
 おお、と少し離れた所でインストラクターが感嘆の声を漏らす。



「やはりこれぐらいなら撃てるようですね。更に距離を伸ばそうか」

『何処まで伸ばすつもり?』

「何処まででも?」

『…はぁ…』



 水無怜奈を中心として組織と対決したあの頃に交わした約束。
 ライフルも試してみるか?なんて軽い調子で掛けられた言葉だった筈なのに…。
 まさかその時の口約束が現実になるとは。



「この距離だとどうなる?」

『はいはい…』



 再び先程彼にレクチャーされた通りに銃を構える。
 そう言った部分の飲み込みは以上に早い黒凪に沖矢が微かに眉を下げた。
 恐らく組織に居た頃はジンに次々と様々な事を教え込まれたのだろう。
 その影響で一度教えられた事はすぐさま出来る様な器用さを身に着けたのかもしれない。
 響いた発砲音に的を見ればまたもや真ん中に風穴が開いている。



「…元々器用な方でした?」

『え?…いや、よく怒られてたから器用じゃなかったかもしれない』

「ほう…、怒られて…」

『何よ。…次の的何処?』



 考え込む様な沖矢を呆れた様に見て黒凪がライフルを構える。
 やがて500ヤード辺りで彼女の撃つ弾丸が的の中央に当たらなくなってきた。
 黒凪はその様子に不機嫌に眉を寄せると何度も撃ち続ける。
 その様子を面白そうに眺めている沖矢に徐にインストラクターが近付いてきた。



「そろそろお時間ですがどうされます?」

「延長して頂けますか?彼女、多分まだ帰りたがらないので」

「分かりました。」



 去っていくインストラクターを見送って腕を組んだままで黒凪に目を向けた。
 やがてそれから1時間が経とうとしていた時、彼女はやっと納得出来た様にライフルから身体を離し彼女の肩から力が抜ける。
 笑って沖矢が黒凪の肩を叩くと彼女は嬉しそうに笑って振り返った。



『見て昴、撃てたよ』

「ええ。些か時間が掛かり過ぎですがね」

『え?…え、ほんとだ!』



 今まで時間になったら止められてたからなぁ…。
 そう言った黒凪は本当に楽しそうだった。
 昴だったらどれぐらいで撃てるの?
 そう言った彼女に的へ目を向ける。



「500ヤード程度なら一発で。」

『うーわ、嫌味〜』

「折角ですし僕も何処まで一発で撃てるか試してみますかね。」



 そう言って構えた沖矢、基赤井はそれから凄まじかった。
 500、600、700ヤードとトントン拍子で真ん中を撃ち抜いて行きタイムリミットを知らせに来ていたインストラクターも思わず固まっている。
 振り返った沖矢は「あぁ、時間ですか」と微笑むとライフルを持ち上げて射撃場を出て行った。
 それを黒凪と共に見送ったインストラクターは「凄いねあんたの彼氏…」と驚いた様に声を掛けてくる。
 黒凪は困った様に笑うと沖矢の後に続いた。






























「随分と集中していたな」

『ええ。…久々に熱中しちゃったわ』

「楽しかったか?」

『うん、楽しかった。でも中途半端に出来ちゃうと駄目ねぇ』



 もう少し上手に撃てるんじゃないかって自惚れちゃった。
 困った様に言った黒凪に「もう少し練習を積めばあの程度なら撃てるようになるさ」と沖矢の姿のままで車を運転しながら赤井が言った。
 そう?と笑った黒凪は「私ね、」と徐に話し始める。



『志保を護るのが仕事だったからあまり狙撃だとかは教わって来なかったの。』

「……」

『それにジンは何でも出来たけど…あの人、狙撃はあまり上手じゃ無かったからその所為もあるかもね』



 ほう…あの男が狙撃が苦手な分野だとはな。
 少し驚いた様に言った赤井に「そうは言っても動いてる的だとかは普通に撃ててたのよ?」と笑った。
 でも狙撃要員を連れて回る程度には苦手だったのかなって。…そう思っただけ。
 笑って言った黒凪は運転をしている沖矢を見て眉を下げる。



『貴方の方が"出来る男"なんじゃない?秀一。』

「お前がそう言うならそうかもな。」

『きっとそうよ。…少なくとも私はそう思う。』




 銀の弾丸


 (あんな男には)
 (負けてないわよね?)


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ