隙ありっ Short Stories

□探偵作品関連
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  男勝り所じゃない彼女

  100000hit企画にて制作したジン成り代わり。
  既存の成り代わり作品がありますが違うものです。



 パン、と鳴った軽い銃声。
 その後に遠ざかって行った足音を聞いた赤井は深いため息を吐き、身体の力を抜いた。
 どさりと目の前の女性に寄り掛かれば「おい」とぶっきらぼうな声と同時に頭を軽く叩かれる。
 片目を開けば自分の頭を叩いているのは黒く光る拳銃の側面だった。



『サボるな、起きろー』

「…あー…」

『あーじゃない。まだ終わってないんだぞ』

「……心臓が、」



 止まるかと。
 その言葉に頭を叩いていた手が止まった。
 チラリと見上げれば困った様に目を逸らし、頬を掻く黒凪がいる。
 目の前の女性は所謂上司であるのだが、彼女を護るのが今回の自分の任務だ。
 元々実力も実績もある上司の元、そこまでこの任務に腰を入れていたわけでは無かったのだが…。
 まさか他の仲間が失敗して追われる羽目になろうとは。



『…ったく、あの野郎帰ったらぶっ殺してやる…』

「……物騒な事を言うなよ。女だろ」

『こんな場所じゃあ関係ねぇっつの』

「…正論だな」



 困った様にそう言って起き上る赤井。
 それを見た黒凪も体を起こし、拳銃の弾丸を確認する。
 胡坐を掻いて拳銃をいじる黒凪にため息を吐いた赤井はぺしっと彼女の足を叩いた。
 女なんだから、と言った赤井に今度は黒凪が彼をげしっと蹴る。



『るっせ。てめーはその背中の傷どうにかしろ』

「…言葉遣いをだな…」

『女にしろってか?お前私の何なんだよ。』

「何って恋人だろう」



 ゔ、と固まる黒凪。
 …そうだった、ちょっと前までこの文句は通じていたが、最近付き合う事に…。
 あー……、と次は黒凪が項垂れた。
 するとカキィン、と側に弾丸が直撃し「うおお、」と縮こまる。
 2人で覗き込めば業を煮やしたのか男が闇雲に拳銃を撃っていた。



『…無駄弾使いやがってよ』

「勿体無い事をする」

『……。』



 弾の数をカウントしていた黒凪は最後の一発が撃たれると同時に拳銃を撃った。
 弾は見事に男に命中、小さく笑った黒凪は男に近づく。
 …流石だな、そう呟いた赤井には目を向けなかった。



『おーい、生きてるか』

「ぐ……」

『生きてるな。…ライ、コイツ運べ』

「了解」



 男を持ち上げ、立ち上がる赤井。
 ついて来いと前を歩き始めた黒凪の長い銀髪が揺れた。
 赤井は男の重みに微かに眉を寄せながらも何も言わず彼女について行く。
 …光に反射する銀髪が、自分とはかけ離れた華奢な背中が。
 目に焼き付いて離れない。



『おい。ぼーっとすんな』

「!…あぁ」

『アジトに帰ったらコーヒー買ってやるから』

「…カフェインが切れてるわけじゃないんだがな…」



 悠々と歩きながらも敵を見つければ着々と殺していく黒凪。
 その躊躇いの無さに悲しくなる時がある。
 自分は潜入している捜査官、彼女は組織の中心人物とも取れる程の幹部。
 黒凪はいずれこの手で捕まえなければならない。
 …最悪の場合、この手で彼女を。



『……っ!』

「!」



 あ。と思わず目を大きく見開いた。
 目の前を歩いていた黒凪が撃たれた。
 腕から血を流してしゃがみ込んだ黒凪にすぐさま拳銃を取り出す。
 かちゃ、と拳銃を構える音が耳に届いた。
 赤井はすぐさま担いでいた男を盾にし、黒凪の肩を叩く。



「おい、」

『油断した』

「あぁ。」



 傷口を抑えていた手を見下ろす黒凪。
 血がべっとりとついていた。
 舌を打った黒凪は拳銃を右手に持ち替えると自分を撃った男を撃ち殺す。
 彼女は左利きだが、右でも難なく銃を打つ事が出来た。
 器用なのだ、彼女は。
 黒凪は2人の盾になった捕虜の男の顔を覗き込み、眉を寄せる。



『…チッ、死んだか』

「あぁ。他の捕虜を探すか?」

『……。いや、あの方はそこまで欲しがってはいないだろ』



 立ち上がり、左手をぐっと握り絞める。
 そうして再び何事も無かったかのように歩き出した。
 が、拳銃は右手にある。
 その様子を後ろから見ていてなんだか変な気分だった。
 いつも左手に持っているのに、と普段は気にしない様な所にばかり目が行く。



「変わろうか?」

『あ?』

「先頭だ」

『……。女扱いしてんのか?』



 あぁ。と即座に返事を返す。
 数秒程黙った黒凪は先頭を赤井に譲った。
 赤井は黒凪の前に進み拳銃を構える。
 その大きな背中に黒凪は目を細めた。



「…偶には良いものだろう?」

『あ?』

「女扱いされるのも」

『……。ま、悪くはねぇけど』



 そっぽを向いた黒凪に微かに笑みを溢す赤井。
 腕を撃たれていて此処まで平気な顔をしている女はそういないだろう。
 ベルモットでも痛がっているのが顔に出るし、キャンティなんて弾を抜かれている間はずっと煩い。
 …彼女だけだ、激痛にも文句ひとつ言わず、静かなのは。
 本当に強い女だと思う。…物理的に。




 物理的に強い系彼女。


 (だ、大丈夫ですかい!?姉貴!)
 (あ?問題ないケド)
 (やせ我慢も程々にしてくだせぇ!)
 (…成程、あれはやせ我慢なのか)


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